『 知的障害や自閉症のある人の暮らしを支える 』
「共動支援計画」による実践
香川大学教育学部附属養護学校:編
エンパワメント研究所:発行 筒井書房 定価:1400円 + 税
ISBN4−88720−429−9 C3036 ¥1400E
個別教育計画(IEP)ということばはもうすっかりおなじみになりましたが、「共動支援計画」はちょっと耳慣れない方が多いのではないでしょうか。
かくいう私も、じつは本書で初めて知りました。
もしかしたら、香川大学教育学部附属養護学校で生まれた「計画」かも知れません。その意味は、子どもたちには一人ひとりに合わせて個別に支援を行っていくのですが、その支援については、学校で関わる全職員が共に動いていこうということです。
連携ということばには、情報をもっている専門機関が、それぞれの考え方や知識を生かしながら支援するというイメージがありますが、共動という表記は、「共に動いて支えませんか」という意味が強く込められているのです。
そして、その思いは本書を読めば、自然に共感できるものです。
香川大学教育学部附属養護学校と聞けば、私たちにはまず坂井聡先生の名前が脳裏に浮かんできますが、坂井先生だけでなく、教職員の方々、みんなの教育・支援というものに対する方向性が同じであることを感じます。今の時代に即した「生きる力」とは、できないところは支援を受けてもいいから少しでも自分でできるようにするということではないかと考えられます。自分一人ではできないことはたくさんあります。
訓練によって鍛え上げて一人でできるようにすることを目指すのではなく、もっといろいろなものを活用して、一人でできることを増やしてみればということです。
活用するものは、人からの支援でもかまわないし、物理的な支援でもかまわないでしょう。さまざまな支援を受けながら少しでも一人でできることを目指すのです。この取り組みの凄いと思うことは、この考えが専門家や教育評論家の方の主張ではなく、現場の教職員の中から生まれた意見で、共動して実践が行われているということです。
人生、80年の現代にあっては、学校卒業後に60年以上の人生が待っているわけで、そのために学校時代に何ができるか、という視点にたって考えられています。
それは「くらす」「はたらく」「たのしむ」ことについて、ライフステージを見通した支援といえるのでしょう。
その考え方と支援については、本書に具体例が写真や表などで詳しく載せられているので、ぜひ参考にしていただきたいと思います。
また、構造化などについても、あくまで子どもたちの助けになるように、と考えられた具体例ばかりです。例えば着替えを考えた場合、場所の構造化として衝立で仕切ったり、カーテンを引いたり、カーペットの色を変えたり・・とか、考えられていると思いますが・・
そして、着替えの場所を明確にすることは、将来更衣室で着替えをすることにもつながっていきます。小学部の段階から、更衣室で着替えることができるようになることを目指して指導しておくことはとても大切なことです。写真5は、小学部の更衣室の入り口です。
更衣室を意識したマークになっており、もちろん、小学部の子どもの目の高さに合わせた高さに表示されています。卒業後の将来につながる支援で、しかも現在の子どもに合わせた支援の大切さを改めて感じさせられた実践例の一つでした。
また、「共動支援計画」と同じく、本書で初めて聞いた言葉に「レディネスの罠」というのがありました。レディネス(準備性) の罠とは、たとえば「この学習をする際には、この段階の学習を先にしておかなければならないから、この指導をしなければならない」という思いこみに陥るということです。つまり、レディネスを重視しすぎると連続性を厳格に守ろうとするカリキュラムが生まれてしまうということです。
A→B→Cという順番を踏まないと次に進めないという思いこみに陥ってしまったら大変です。「あなたはこのレベルだからこれは早いです」などということにもなりかねません。レディネスが欠けていたとしても、それを補う支援やアイデアがあれば、目標を達成することができるのです。たとえば、買い物を考えたとき、金額が理解できなければ、買い物ができないかというとそのようなことはなく、大きな金額のお金で買い物してお釣りをもらってくることができればいいということです。
今でも、教室では百円玉や十円、一円を使って、お買い物練習をしている子どもたちが多いのではないでしょうか?
確かに、お金を数えられることも大切ですが、現実の買い物では、少し大きめのお金を出してお釣りをもらうことが多いと思います。
そして、我が息子はお釣りをもらわずに帰ろうとしたことが多かったような気がします (^_^;)学校での練習でも、実際のお店で千円札を出して、気軽に買い物の楽しさを体験し、しかもお釣りをもらうのを忘れないように・・・その方が将来の生活の幅を広げることにつながるのでは、と納得させてもらった「レディネスの罠」でした。
(「会報 73号」より 2004.5)
目次
刊行にあたって
はじめに
第1章 社会参加するということは
1 国際障害分類から国際生活機能分類へ
2 ICFでは
3 どうすればいいのだろうか?
4 生きる力を育てるために第2章 学校で何ができるか?
1 学校という場所
2 学校には時間がある
3 支援と教育は相反するのか
4 困っていることが何かを考えると支援が見えてくる
5 こんな支援を考える第3章 「くらす」「はたらく」「たのしむ」
1 「くらす」こと、「はたらく」こと、「たのしむ」こと
2 服が着られるようになるだけではつまらない
3 バランスよく指導できているもか?第4章 暮らす
1 身の周りのことができるようになるということは
2 目標を立てることから
(1) ちょっとがんばればできることを
(2) 課題分析をしてみましょう
(3) 発達検査も役に立つ
(4) レディネスの罠に注意
(5) 指導はスモールステップで
3 一人でできるということは
(1) 着替えができるようになるだけで
(2) 好きな服で
(3) 場所をわかりやすくして
(4) 着替えの手順を理解して
4 食べること
(1) 楽しい食事の場に
(2) 偏食に対する指導
(3) 食べられるものと食べられないもの
(4) 食事中のやり取りの工夫
(5) 自分で決めて食べられる
(6) 食事を自分で作ること
(7) 食事の前には歯磨き
5 時間がわかれば
(1) キッチンタイマーの活用
(2) キッチンタイマーが使えない
(3) それでもうまくいかない
(4) 声をかけて集まるのとどこが違うの?
6 スケジュールを使って見通しを
7 暮らすといっても第5章 仕事ができるように
1 役割意識を育てる
(1) 役割を果たすうえで
(2) 一人で役割を果たすためにどうする?
(3) 何ができなくて何ができるのかを知ることから
(4) こんなアイデアもあります
2 役割意識だけで働けるのか?
3 作業学習では限界が
4 家庭と協力して
5 現場実習を通して
(1) 本校で行っている現場実習の期間は
(2) 高等部1、2年の実習では
(3) 高等部3年では
(4) 3年次の実習先の開拓と関係機関との連携
(5) 現場実習は将来の生活のシュミレーション
6 卒業後を支えるために
(1) 卒業後はどうなるのか
(2) 卒業後の「青年教室」第6章 楽しむ
1 余暇とは何か
2 余暇を楽しむためには
3 卒業後の生活も見通して
4 一人でできるものを増やす
5 こんなコーナーを使って
(1) ちょっと余談ですが
6 図書館は使われていますか?
7 どんなことに取り組んだのか
8 余暇を過ごせるようになるために必要な力を
9 スポーツをして余暇を過ごす
(1) 部活動では
(2) 卒業後にスポーツをする機会を得るために
10 サポートシートの活用
11 部活動に参加できない場合は
12 「わたしの」アフターファイブ、ウィークエンド第7章 みんなで支援するという発想
1 共に動いて支援する
2 共同支援計画を立てる
3 中学部や高等部では
4 サポート教室で
5 アクティブシートを使って第8章 やはりコミュニケーション
1 わかるように伝えるための構造化
2 構造化するときに
3 わかっているはずなのに
4 チャンスは決行多い
5 コミュニケーションエイドを使ってみる
6 話題はありますか
7 子どもとのコミュニケーションだけでは第9章 視点を変えて
1 総合病院の待合室での出来事 1
2 私たちも同じ
3 総合病院の待合室での出来事 2
4 このことから見えてくるもの
5 総合病院の待合室での出来事 3
6 視点を変えるのは誰?
7 質の高い支援をするために
8 家族だからできること
9 共に動く関係第10章 まとめにかえて
「同じ人間だもの」と「十人十色」1 研究をしてきて
2 障害観の変化
3 同じだけど違う!?おわりに
参考文献
執筆者一覧
平成15年度
校長:黒田 直実、副校長:斉藤 恵子、教頭:馬場 広充
薬師 美恵子、岩本 豊、松本 英典、猪熊 優子、伊藤 宏美、野瀬 五鈴、
小林 壽江、森近 勇、木下 正子、岩崎 俊明、松本 美加、坂井 聡、平野 和代、
植松 克友、永井 均、岡野 一子、藤田 真太郎、紅野 真弓、北村 宏美、
薮内 雅昭、多田 守、中澤 左知、黒川 明子、大路 典子、西村 健一、
林 徳恵、野村 友紀、荒井 桂子平成14年度 転出者
小笹 文男、大西 佳子、原岡 慎治、辻 華子平成13年度 転出者
中塚 勝俊(前校長)、野田 佳敬、竹森 富士子、尾崎 仁美平成12年度 転出者
車谷 眞弓、永木 秀和、大吉 あゆみ、古河 幸恵平成11年度 転出者
末澤 清(前副校長)、西谷 厚子、多田羅 敏弘、佐藤 和代、北村 嘉良子、
畑 絹代平成10年度 転出者
高橋 圭三、多田羅 洋子、尾松 賢一、松原 初美、宮本 覚、佐藤 麻里子