sorry,Japanese only

『 自閉症教育実践ガイドブック
     
    今の充実と明日への展望

独立行政法人 国立特殊教育総合研究所:編著 ジアース教育新社
定価: 1143円 + 税 
ISBN4-921124-30-2 C3037 \1143E


本書のもととなったのは、平成15年度から3年計画で行われている「養護学校等における自閉症を併せ有する幼児児童生徒の特性に応じた教育的支援に関する研究」プロジェクトのうち、平成15年度分の研究成果としてまとめられ、各県の教育委員会や養護学校等に配布された、同名のガイドブックに加節されたものです。

その目的の一つは、現在知的障害養護学校在籍者の約3割程度が自閉症であるといわれますが、その教育は自閉症の特性による、というよりは知的障害の枠内でとらえられ、その内容や方法も自閉症児のニーズに個別的に対応したものでなかったという反省から、改めて自閉症児に適した指導内容・方法を提言していこうというものです。

したがって、対象とするのは、養護学校に在籍する知的障害をもつ自閉症児がその中心となっています。
コミュニケーションや社会性に困難のある自閉症児に、どのような内容・方法で指導を行っていけばいいか。また、感覚過敏や見通しの立てにくい子どもに対しては、どのような配慮が必要か。具体的に書かれています。
内容は「ガイドブック」と名付けられているように、入門的な話が多いですが、逆に自閉症児に関わる先生には最低限知っておいていただきたい内容です。

メンバー構成は、障害の種別や知的な能力水準、生活年齢が同程度の者から成る同質集団と、それらが様々な混合集団の2つに大きく分類することができます。
自閉症の子どもばかりの同質集団と違って、知的障害の子どもとの混合集団では、場面設定を工夫すると、友達と関わるのが大好きな知的障害のある子どもからの働きかけがごく自然に見られたりするという利点があります。

しかし、ある自閉症の子どもにとっては友達の笑い声や泣き声がとても不快な音刺激になっていて、自傷・他傷行動等の引き金になる場合もあります。
混合集団を組む場合は、子どもの能力水準だけでなく、自閉症の子どもの感覚過敏性と他の子どもとの関係などについても考慮する必要があります。

そうなんですよね。でも、こうして「考慮する必要があります」と書かれていることの裏には、これまでの知的障害養護学校の現場では、「同じ知的障害」とみなされて配慮されていないケースもある、ということで、悲しくもなりますね。
最後の章でおしまコロニーの星が丘寮施設長の寺尾孝士先生が 「福祉から学校教育への意見」で提言していただいています。

入所時点において、彼らの多くはごく基本的な身辺処理技能が身に付いていませんでした。介助しなくてもできるようになっている場合でも、肝心のところが抜けていたり、個々の技能としては身についているのに、実際の場面ではそれをうまく使うことができなかったりしていました。
その他、地域の中で暮らしていくうえで当然身につけておかなければならない、基本的なルールや人との付き合い方も適切には身についていませんでした。
コミュニケーションに関しても、言葉の理解といったことに混乱を示していたり、いやだということを表現するときも、伝えるのではなく拒否行動やかんしゃくを起こしていました。
働くといった概念や余暇に関する技能を身につけている人はほとんどいませんでした。

自閉症の人たちに対して、適切に学習させていくという取り組みを行わないと、自分から必要なことを身につけていくのはなかなか困難です。ということは、星が丘寮に入所してくる人たちのような状態を示しているということは、それまで彼らが受けてきた学習の結果であるといえます。
これからの彼らの長い人生を考えたときに、一人でできることは他人の手を借りないで、必要に応じて適切な支援を受けながら、自尊心をもって自立して暮らしていくことが重要です。
そのためには、最低限、
以下に述べることを幼児期から身につけておいていただければ、青年・成人期になったときに、行動障害を示したりそんなに混乱しないで暮らしていける可能性が高まります。

これから初めて自閉症児に接することになる先生方や、我が子が自閉症と知って何からとりかかれば・・と思われているお母さん方にはお薦めの一冊になると思います。

最後に寺尾先生が「以下に述べること」とおっしゃた、幼児期から身につけておいていただきたいことを、目次だけあげておきます。
それぞれの内容について、詳しくは本書に述べられていますので、ぜひ一度は目を通しておいていただきたいと思います。

1 一人で身辺処理をできるようにする
2 お手伝いをできるようにする
3 余暇時間を一人で過ごせるようにする
4 コミュニケーションをしようとする心と力をつける
5 スケジュールに従うことができるようにする
6 できるだけ質の高い作業技能を身につける
7 できる限り適切な社会的行動と対人行動を身につける

「会報77号」 2004.9)


  目次

はじめに ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 小塩 允護

第1章 自閉症とは

第1節 医学的理解と障害理解の見地から ・・・・・・・・・・・・・・・・ 西牧 謙吾
第2節 定義の理解 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 東條 吉邦
第3節 過敏性など随伴することについての理解 ・・・・・・・・・・・・ 花輪 敏男
第4節 知的障害のある自閉症 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 竹林地 毅
第5節 行動上の問題への支援 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 肥後 祥治
第6節 高機能自閉症(HFA)の行動特徴と支援 ・・・・・・・・・・・・ 園山 繁樹

第2章 自閉症の子どもの教育内容・方法

第1節 指導内容

第1項 ニーズと指導のアセスメント ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 佐藤 克敏
第2項 知的障害のある自閉症の子どもの教育課程の編成・・ 竹林地 毅
第3項 自閉症の自立活動 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 徳永 豊
第4項 コミュニケーションと社会性 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 宇佐川 浩
第5項 家庭や地域生活、将来に向けての指導内容 ・・・・・・ 是枝 喜代治

第2節 指導方法・教育環境

第1項 集団指導のねらいと工夫 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 涌井 恵
第2項 個別指導のねらいと工夫 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 廣瀬 由美子
第3項 構造化の実際 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 齊藤 宇開
第4項 コンピュータ等の教材教具の工夫 ・・・・・・・・・・・・・・ 大杉 成喜
第5項 地域生活支援について ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 齊藤 宇開
第6項 家庭や地域生活を支える工夫 ・・・・・・・・・・・・・・・・・ 佐久間 栄一

第3章 学校生活に期待すること

第1節 自閉症の人の早期教育−幼児期から学校教育への意見・・・河島 淳子
第2節 自閉症の人の将来と今後−福祉から学校教育への意見・・・寺尾 孝士
第3節 家庭支援の現状と課題−保護者から学校教育への意見・・・氏田 照子
第4節 自閉症教育をめぐる行政的課題 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 石塚 謙二

資料 独立行政法人国立特殊教育総合研究所における自閉症関係の文献


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