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『 アスペルガー症候群
   教師として知っておくべきこと 』
マット・ウィンター:著 柏木 諒:訳 スペクトラム出版社
定価:1200円+税 ISBN4-902082-02-0 C0037 \1200E

育てる会では、ここ数年、毎年「自閉症支援者養成講座」を開催しています。年10回の講座を、主に学校の先生方など、自閉症の支援にあたっていただいている方々に、自閉症への正しい理解や適切な支援のやり方を自分のものとしていただきたいからです。毎年数十人のみなさんが、授業や職場の終わったあと、夜間の講座に集まっていただいています。
保護者として感謝の思いでいっぱいです。
その一方で、「普通学級に通っているのですが、担任の先生が障害ことをなかなか分かってくれません」という話を聞くこともあります。特別支援教育が始まり、普通学級で学んでいるアスペルガー症候群、高機自閉症、ADHDやLDなど、発達障害をもつ子どもたちへの支援の大切が、改めて見直されているというこの時期にです。
確かに、普通学級を担任されている先生方の忙しさ、求められている提出書類の多さなどの話も聞き、特別支援学校や特別支援学級の先生方に比べて、クラスに若干名しかいない発達障害児への支援方法の知識吸収にまわす時間が後回しになりがちなのかも知れませんね。
でも、それによって、適切な支援をうけられないで混乱してしまう子どもたちのことを考えたら、保護者としては簡単に納得はできません。
そこで、本書の出番です。題名にあるように、「教師として知っておくべきこと」の最低限の項目がまんべんなく網羅されているという印象です。お忙しい先生が簡単に読めるように、比較的大きな活字で60ページほどの薄い本です。
著者もニュージーランドの小学校の教師で、同じようにお忙しい先生方のために、すぐに教室で使えるヒントやアイデアを紹介したものです。
ボールを活用しましょう
クラスで話し合いをしているときには、話してよい人にボールや棒などを順番に渡すようにします。そうするとAS(アスペルガー症候群)の子どもは代わる代わる話すことを学べて、グループでの話し合いを邪魔することがなくなります。代わる代わる話さなければならない理由も説明しましょう。
グループは教師が選びましょう
活動をするグループはいつも教師が選ぶようにしましょう。そうすればASの子どもが残されずにすみます。ASの子どもは人とのやりとりやチームスポーツが苦手なので、クラスメイトからチームやグループに加わるように、はじめから誘われないことがよくあるからです。
校庭で行なう支援
校庭はおそらく、ASの子どもを窮地に追い込む最も危険な場所です。広いオープンスペース、複雑な人とのかかわり、守るべきたくさんの暗黙の了解事項、そして大量の騒音、景色、においが渾然一体となって、ASの子どもを困らせます。また校庭は、運動スキルに乏しいASの子どもが腫れた親指のように周囲から浮いてしまい、身体のいじめや言葉によるいじめを受けやすい場所です。
このように、本書では理論というより、著者の小学校での実践から生まれたノウハウの数々が簡潔なことばで紹介されています。
それらは、育てる会の賛助会員の先生方には、もう周知のことも多いと思います。でも普通学級で初めてASの子どもを担任することになった先生には、すぐに役立つ、初めてのASの入門書としてお薦めできる本ではないでしょうか。
もっとも立ち読みでも読み終えられそうな薄さの本の割りには、少々値段が高いように(定価1200円+税)思われるかもしれません。確かに一人で買って読む分には高いかもしれませんが、時間を取られずに簡単に読めるだけ、少なくとも小学校での学年団の先生方や、中学校で教科を教える全ての先生方が、みなさんで一度は目を通しておいていただければ、その価値は十分に報われると思います。
各学校の教員室の隅の棚には、ぜひとも置いておいていただきたいような一冊です。
(「育てる会会報 122号」 2008.6)

  目次

はじめに
1 アスペルガー症候群とは?
2 ASの子どもが示す徴候は?
全般的なこと
   ・ 正直さ
   ・ 独創性
   ・ 特別な興味
   ・ 決まり事を好む
社会的なかかわり
   ・ 社会的サインやボディランゲージの理解が困難
   ・ 高いストレスレベル
   ・ 感情を表現したり調整するのが困難
   ・ 他人の感情を理解するのが困難
   ・ 強い道徳規範と正義感
   ・ 心の理論の困難
   ・ 遊んでいるときにコントロールすること
学習
   ・ 字義通りの解釈
   ・ 視覚記憶
   ・ すぐれた長期記憶
   ・ 予測の困難
   ・ 柔軟性のない考え方
   ・ 般化の困難
   ・ 完全主義
身体と感覚
   ・ 運動の不器用さ
   ・ リズム
   ・ 感覚の敏感性
   ・ 方向感覚の弱さ
   ・ 両側協調運動障害
   ・ 視覚認知の困難
   ・ 聴覚認知の困難
   ・ 痛みを感じるレベル(痛覚閾値)が高い
3 教室での対処法は?
生活のシステム化
   ・ 視覚的なスケジュール表をつくりましょう
   ・ 変更の予告
   ・ リストとスケジュール
   ・ 色分けをしましょう
   ・ 校内地図をつくりましょう
   ・ 早めに登校するようにさせましょう
   ・ 席決めは慎重に
授業
   ・ すべてのものを視覚的にしましょう
   ・ 話しながら動作をしましょう
   ・ 特別な興味を利用しましょう
   ・ 本人のやり方を認めましょう
   ・ タイマーを使いましょう
   ・ ボールを活用しましょう
   ・ ノートをとる方法
   ・ グループは教師が選びましょう
   ・ 協力的な学習体制をつくりましょう
   ・ 質問をするときは忍耐強く
   ・ 指示は明確に
   ・ 間違ってもよいことを教えましょう
   ・ 助けを求めるサインを決めましょう
   ・ 話し方に注意しましょう
   ・ 指示を復唱しましょう
   ・ 考えは小声で
   ・ 体育の授業では別プログラムを用意しましょう
   ・ 家庭と学校のコミュニケーション
感覚の敏感性
   ・ 聴覚
   ・ 視覚
   ・ 触覚
   ・ 嗅覚
   ・ 味覚
   ・ 学校環境で問題になる感覚の困難
不安・気分の変動
   ・ 感情を抑えましょう
   ・ ストレス解消ボール
   ・ 怒りを抑える方法を教えましょう
   ・ 落ち着ける場所を探しておきましょう
   ・ 締め付け療法
   ・ 安心アイテム
   ・ 不安を取り除きましょう
   ・ 注意をそらしましょう
   ・ わからないことをノートに書きましょう
   ・ 定期的な「チェック」
   ・ 因果関係を明らかにしましょう
   ・ 取り組むべき課題を選びましょう
   ・ ご褒美システム
補足
4 ソーシャルスキルを伸ばすには
ソーシャルストーリー
コミック会話
友だちの輪
ロールプレイ
始めと終わりの言葉
クラブ活動に参加する
友だちづくりを助ける
手がかりに注目させる
テレビ番組を利用する
話すとよいことを教える
感情を探る
お話タイム
いじめ
5 校庭で行なう支援
6 補助教員が注意すべきこと
7 学校で知っているべき人は?
8 宿題をどうするか?
宿題をする環境を変える
宿題のやり方を変える
9 子どもの勉強を支援するには?
10 クラス替えや転校の前によくあること
11 私はASの子どもにふさわしい教師だろうか?
12 ASについてもっと知りたいときに
      ― どこから始めたらよいか?
参考図書
さくいん

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