sorry,Japanese only

自閉っ子における モンダイな想像力 』

ニキ・リンコ:著 花風社 定価:1600円+税
ISBN978-4-907725-70-9 C0036 \1600E

もうすっかりおなじみになった、『自閉っ子、こういう風にできてます!』や『俺ルール!』に続く、花風社でのニキさんワールドです。挿絵や漫画もいつもの小暮満寿雄さんで、前作を読まれた方なら、安心して楽しんで(?)もらえると思います。
前作までは、自閉症者の感覚の違いやユニークな思考方法などを紹介していただいたのですが、本書ではその中の「モンダイな想像力」に絞って話しが展開していきます。
「はじめに」の中でニキさんも書かれている通り、自閉症を特徴づける三つ組の障害とは、すなわち「コミュニケーションの障害」「社会性の障害」「想像力の障害」なのですが、前二つの障害はすぐ理解できるのですが、最後の「想像力の障害」については、最初はピンとこなかった人も多いのではないでしょうか。
確かに知的障害を伴うカナータイプの場合には同一性保持や実際に体験したこと以外は想像できなかったり・・・と想像力に障害がある場合もありますが、一方で高機能の子どもたちの中には、ファンタジーにふけったり、普通の子以上に想像力の豊かな子どもたちもいます。
では、自閉症の判定基準である「想像力の障害」とは、一体なんなんでしょう?
それを当事者の言葉で説き明かすのが本書だといえるでしょう。
ニキさんは、それについて 本書では「想像力が、世俗の生活の役にたってくれない障害」 ではないかと考えています。
私は本書を読んで「想像力が、自己の世界の中だけで完結して、らせん状にどんどん勝手に高まっていく障害」のように感じました。ニキさんが前著で命名された「俺ルール」の世界です。
まあ定義は置いておくとして、たとえ高機能であっても自閉症児・者がこの想像力の障害に苦しまされていることを、本書から読み取ってほしいと思います。特に子どもたちにとっては大きな問題です。大人になり経験を積むに従って、少しずつは普通(非自閉圏)の人たちが持っている常識についても学習して、自らの想像とも次第に折り合いをつけられるようになるのですが、子ども時代はそれどころではありません。
自閉っ子としてはありふれた趣味ではあるが、私も幼い頃はカレンダー作りに熱中した。
ある日のこと、私はいつものとおり製作にいそしんでいた。ところがこの日は、陶酔のあまり、とちゅうでトランス状態に入ってしまったらしい。
ふと気がついたら 《31日をはるかに過ぎて、延々と続くカレンダー》 ということになっているではないか。
私はうそを書いてしまったのだ。うそつきになってしまった。
自分がうそつきになってすむのなら、まだいい。このカレンダーが本当になってしまったら、その方が大変ではないか!
この世界の秩序は、四季の循環は、地球の公転は、星座の動きは、どうなってしまうのだろう?
大失態に気づいた私は取り乱し、(たぶん)震える手で、不吉なカレンダーをなるべく細かくちぎった。
お誕生会の紙吹雪より細かくちぎった。白ばっかりの方が雪みたいで、お誕生会の紙吹雪よりいいなあと思った。
実はこういう作業はけっこう好きだったりする。やっているうちに、自分が世界を破滅の危機に追い込んだことも忘れて、紙吹雪作りの作業に没頭してしまってもおかしくない。実際、作業中は、破滅の恐怖も、罪悪感も、すっかり忘れていたような気がする。
それでも、ちぎり終えたとたん、私は自分の使命を思い出した。今になって思ったら、よく思い出せたものだとふしぎに思うが、とにかくどういうわけか思い出せたらしく、紙吹雪をポケットに詰めて外へ出た。
そして、時間の異常の影響力を少しでも薄めようと、町内の各所に、できるだけまばらにそれを捨てて回った。・・・・
町内各所にばらまくことにしたのは、あくまでも、影響力を薄めたかったから。
うっかり一か所にまとめて捨てようものなら、そこだけ暦の異常が生じるリスクが高まりそうに思えたのである。
確かに想像力は旺盛で、それなりに話の筋は通っているかのようにも思えますね。
ただ前提の、間違ったカレンダーを作ったから・・・・というところで、大きく想像力が「世俗の役に立たない」方向に迷い込んでしまったのでしょう。本人、あくまで真面目なだけに、周りの子ども達の理解を超える世界に踏み込んでしまったのですね。
ニキさんの前著での言葉を借りるなら「話せば長いんですけど、私たち自閉っ子の振る舞いには、実は大変 『浅いワケ』があるのです!」といったところでしょう。
そうなると、子どもたちが迷い込んだ想像の世界を “想像”して、理解してあげる、あるいは正しい(役に立つ?)方向に導いてあげることが子どもたちに接する支援者の役割の一つであるような気がします。
もっとも、大人になっても、うっかりすると想像力の迷路に迷い込んでしまうそうです。ニキさん、睡眠障害で朝早く目覚める睡眠不足におちいっていた時、スーパーで「朝まで熟睡」なる宣伝文句のついた生理用品を見つけ、「これだ!」と思って生理中でもないのに意気揚々と・・・・結局、翌朝も「朝まで熟睡」はできなくて朝早く目覚めてしまったそうです。
思わず笑ってしまったのですが、笑ってはいけないんですよね。まして、子どもたちにとってはこのモンダイな想像力、周りとの誤解や軋轢にも通じるものでしょう。それがいじめの誘因となってしまうかもしれません。
本書を読んで、彼らのモンダイを暖かく理解し、周りとの通訳となってくださる方が一人でも増えてくれるようになることを願っています。
(「育てる会会報 113号」 2007.9)

  目次

はじめに
想像力がちょっと弱いと、何が起きる?
「お名前は?」
「ご住所とお名前は?」
クイズ、なぞなぞ、知育テスト
カレンダーを捨てに
想像力がちょっと弱いと、何が起きる? 2
モンダイな想像力と心配ごと
うそって何?
嘘つきネズミの告白する、前科の数々
書きはじめたはいいけれど・・・・
「ゼロ日坊主」の罠
子どもと同じ
梅毒かと思った
「途中経過」の発見

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