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『 自閉症の人の人間力を育てる 』

篁 一誠:著 ぶどう社 定価:2200円+税

本書は2003年から2004年にかけて、日本自閉症協会東京都支部(現:NPO法人東京都自閉症協会)で行なわれた3回にわたる「自閉症連続療育講座」の講演をまとめられたものです。既に、それぞれの講演録は東京都自閉症協会で発行されていましたので、ご覧になられた方もいらっしゃるかもしれません。今回、改めて3回分をまとめて、ぶどう社から発刊されました。
篁先生には、平成19年に育てる会でも講演をお願いして、その静かな語り口の中にも、自閉症児者への愛情と、長年の経験に基づく深い洞察に、岡山にも先生のファンが多く生まれました。
先生はまえがきにあるように、心理学を専攻とした臨床心理士として、1967年から医療機関で30年、その後横浜のやまびこの里という福祉施設で自閉症の成人の支援と、実に42年もの関わりです。
ここに綴られているのは、机上の理論ではなく、まさしく一人ひとりの自閉症の人たちが、自らの体験、暮らしの中から身体全体で先生に伝えてきたものの集積だと思います。
そしてそれを、やさしい語り口で私たちにお話してくれる篁先生に感謝です。
例えば、いわゆる問題行動への対応を私たちが考えるとき、その原因・誘引として、その直前に起きた「目に見える」現象に注目しがちです。
もちろん、その場合もありますが、先生は別の見方として生理的要因にも着目することの大切さを言われています。特に、体温に注意されるようにおっしゃいます。
私たちは常温動物ですが、自閉症の人たちは変温動物の状態なのです。そういうことを医者に言ったら、「おまえは生物学を学んだのか!」と言われました。「なんでそんなに体温が上がったり下がったりするのだ。そんなことはあり得ない」と言われました。
でも、実際に自閉症の人たちの体温を計ると、変温動物なのかと思いたくなるくらい、体温の変化があります。
こういう事実を踏まえて、私たちは自閉症の人たちにかかわっていかなければいけないと思います。
長年、自閉症の人とかかわり続けた筆者ならではの指摘だと思います。他にも、「暑くても汗をかかない」これは哲平の幼い頃に、まさにあてはまります。
「成人して、少しずつ汗の出方が変わって、流れるような汗をかくようになった人たちは穏やかになってきます」
哲平もマラソンを続けるうちに、今はびっしょり汗をかくようになりました。汗の出方までが変わってくるって、やはり自閉症の人の体質は私たちとは変わっているのでしょうね。
また、「10歳の夏休みから10年計画で、家庭で家事を担えるようにするために、ひととおりの家事を、お子さんに教えていきましょう」これもまたまさに、我が家にあてはまりますね(哲平は1月生まれなので、少し遅れて11歳の夏休みでしたが)。
今では、そのおかげで、妻のいない日は哲平が夕食や風呂の支度など、私の世話をしてくれるようになっています (^.^)
そして、本書のテーマの一つ、「自閉症の人に育てたい3つの力」。
(1)模倣する力を育てる
(2)人からものを教わる姿勢をつくる
(3)意欲を育てる
少し抜粋します。
1つめは、お子さんの年齢が小さいときにかぎらず、中学生・高校生になっても必要だとおもうのは、〈真似をする − 模倣行動〉をつくっていただきたいということです。・・・
2つめは、〈人からものを教わる姿勢〉を、どうつくり上げるかということです。これを持たない人たちは、社会参加をしたときに、とても限定された社会参加になってしまいます。・・・
3つめは、意欲の問題です。さきほど、彼らは自分の意思で行動するときと、意思のないときの行動とは違う、というお話をしました。大事なのは、意思表示をすることだけではなくて、我慢をすることも大切だということです。
筆者は、「自閉症は意欲の障害である」と捉えて、その意欲を引き出すための方法、我慢を教える方法も具体的に提案されています。
「ハンバーグにしようか、カレーライスにしようか。どっちでもいいよ。(2つとも同じくらい好きなもの)どっちか1つ選んでくささい。両方はつくれないから、1つ選びましょう」と言います。
カレーライスを選んだら、「ハンバーグを我慢できたね」と言います。これが〈我慢〉です。
いやなことを我慢するのではなくて、2つのうち1つを選んだということは、もう1つのことを我慢したのだ − こういう感覚を育てていただきます。
これをしないと、意欲も育ちませんし、我慢もできません。
大事なのは、自分で選択をし、自分で決定をしていくことです。
本当に納得できる言葉です。私たちは「我慢」を教えようとする時、ともすると「嫌なことでも我慢できるように」と課題を設定しがちですね。そうではなくて、両方とも好きなことの、片方を選択することによって、もう一方を「我慢」することになり、しかもそれを「我慢できた!」と褒めることにより意欲を育てる・・・まさに目からウロコでした。
また、本書の中で先生は「自立」という言葉の前に、その準備段階としての「自律」という言葉を使われています。それが「我慢」を正しく教えるということなのでしょう。
自閉症の子どもたちが、将来働ける自閉症の大人になるために・・・、「自律する力を、こうして育てる」今、子育ての中にいる全ての人に読んでいただきたい一冊です。
(「育てる会会報 135号」 2009.7)

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