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『 高機能自閉症・アスペルガー症候群及びその周辺の子どもたち
   
− 特性に対する対応を考える −
尾崎 洋一郎・草野 和子・尾崎 誠子:著 同成社 定価: 900円+税
ISBN4-88621-323-5 C2037 \900E

本書は、高機能自閉症やアスペルガー症候群に関して、教育相談の経験から幼稚園や小中学校の先生方に「とりあえず、これくらいは知っておいて欲しい」という内容をまとめたものです。
このように紹介されているように、「とりあえず」という意味で、初めて自閉症スペクトラムの子ども達に接する先生方に、最低限知っていただきたい事柄をまとめていただいた “ガイドブック” です。
ページ数も100ページに満たないですし、要点を大きく箇条書きにしたり、線で囲ったりと、とても見やすくわかりやすい本になっています。各ページにイラストが入っていて、この絵とセリフを読んでいくだけでも、かなりの情報がえられるはずです。
お忙しい学校の先生、特に普通学級の先生で「専門的な本はチョット・・・時間的にも・・・」と思われている先生でも、負担なく読んでいただける本だと思います。
内容についても、目次からサッと目的の場所を開けば、具体的なアドバイスがすぐに見つけられるようになっています。
少し長くなりますが、例えば、「学校の教室への工夫」について知りたくなったら・・・(↓の目次も合わせてご覧ください)
まず、【支援のポイント三段階】
      T こどもの周りを変えよう
      U 子どもに自信をつけさせよう
      V 子どもの特性から指導法を考えよう
  のページを開き、
次に、この中から 「T こどもの周りを変えよう」 の節を選びます。すると、
    【周りを変える三つの視点
      (1) 教室での環境を整えよう
           ・ 不必要な情報の排除 (刺激の整理)
           ・ 過敏性への配慮
           ・ 見通しのある生活の提供
      (2) 教師自身の接し方を見直そう
           ・ 共感的な見方を (美点凝視)
           ・ 情報の提示は一度に一つ
           ・ 要点だけを伝える
           ・ 断定的に言う
           ・ 肯定的に伝える
           ・ 誤解させない表現で伝える
      (3) 保護者の心を支えよう
           ・ 良好な親子関係こそが、子どもの情緒安定につながる
           ・ 「いつかは治る」を捨てさせよう
という項目で要点が整理されています。
最後に、具体例として、この中から目的の
      (1) 教室での環境を整えよう
           ・ 不必要な情報の排除 (刺激の整理)
を選んだとすると、
(例) ・ 教室の壁飾りや展示物は少なめにする。
      展示物は後方の掲示板へ整理する。
      前方は黒板に集中できるように他の刺激は極力なくす。
    ・ 教室の棚には、全部無地のカーテンを掛ける。
      カーテンに飾りはつけない。
    ・ 透明ガラスの窓には、座位の高さから外が見えないように紙を貼る。
 以上のように、必要のない刺激が入らないようにします。要は、教室はよく整理しておくということです。
このように、他にも全ての項目において例が載っていますので、「とりあえず」これだけのことを理解して、実行していただければ高機能自閉症やアスペルガー症候群の子どもたちは、ずいぶんと楽に学校生活を送ることができると思います。
それだけでなく、これらの配慮はカナータイプの自閉症児にとっても、ADHDや知的障害の子ども達にとっても、もっと言えば定型発達している普通児たちにとっても、落ち着いて授業が受けられる環境だと思います。
あえていえば、これらの支援を、より切実に必要としているのが自閉症スペクトラムの子ども達であるというのにすぎないのでしょう。
この本を参考にして、彼らの学校での生活が少しでも良い方向に変わることができたらと願っています。
それと、この本を学校の先生方にお薦めしやすいところの一つに、著者がいわゆる学者・専門家ではなく、実際に学校現場におられる校長先生だということがあります。資料も文部科学省から出典のものが多く、その点でも先生方に抵抗なく読んでいただけるお薦めの一冊だといえると思います。
(「会報 90号」 2005.10)

  目次

はじめに
読み始める前に
理解のために
こんな子いるかな?
グレーゾーンの子どもたち
自閉的な障害には連続性がある
高機能自閉症とは
アスペルガー症候群とは
自閉的な障害の特徴
自閉症児の世界
高機能自閉症児の学校での様子
高機能自閉症児の特徴及び理解
なぜ話が通じないのか
パニックの原因
障害は犯罪に直結せず
対応を考える − 理論編 −
行動の改善には時間が必要
発想の転換を
支援のポイント三段階
T 子どもの周りを変えよう
    1 教室での環境を整えよう
    2 教師自身の接し方を見直そう
    3 保護者の心を支えよう
U 子どもに自信をつけさせよう
    1 できた! という達成感を
    2 こだわりを生かそう
    3 いじめから守ろう
    4 社会的常識を教えよう
V 子どもの特性から指導法を考えよう
    1 課題の内容を視覚化する工夫
    2 見通しが得られるような提示の工夫
担任の先生方に再度お願いしたいこと
対応を考える − 実践編 −
その子を知ることから対応は生まれる
こんな様子が見られませんか?
集団で行動するときにトラブルを起こす
授業中に席を立ち歩いて回る
自分の好きなことに夢中で次の授業に入れない
遊びやゲームでルールの理解が難しい
一方的に話す
ことばの内容が理解できないようにみえる
一番になることにこだわる
よい子のイメージへの基準の狭さ
新奇場面や通常と異なる場面への適応の困難さ
パニックになる
おわりに
参考資料
高機能自閉症の定義と判断基準
参考文献等

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