sorry,Japanese only

『 地球生まれの異星人 』
   
自閉者として、日本に生きる

泉 流星:著 花風社 定価: 1600円 + 税
ISBN4-907725-57-4 C0036 ¥1600E


「泉 流星」さん、はてさて性別不詳のペンネームですね。実は自閉症スペクトラムの診断を受けてはいるのですが、今は何とかおりあいをつけて暮らしておられる奥様です。
その意味で、境遇としては、以前会報で紹介した『アスペルガー的人生』の著者のリアン・ホリデー・ウィリーさんとよく似ているかもしれませんね。

さて、本書に戻って・・・普通の人とは「少し違った」感覚と認知を持つアスペルガー症候群として生きてきた泉さんにとって、これまでこの世界は非常に理解しがたいものでした。
本書の題名に「異星人」の名前があるのはそのせいなのでしょう。

また、高機能自閉症やアスペルガー症候群の方にとっては、この「少し違って」という理由だけで、すごく生きにくくなってしまうのが、日本の現状ではないでしょうか?
なにしろ単一民族(アイヌの方や琉球の方からは、ヤマトンチューと言われるかも知れませんが・・・それはおいといて(^_^;)・・・)で、人と違っていることは、良くないことと思われかねない民族性です。それを理由に、日本で初めて自閉症スペクトラムの手記を出版された森口奈緒美さんの思春期が「いじめ」の黒雲に覆われていたのを思い出しました。


泉さんの少女時代も、もしかするとそうなっていたのかもしれません。それを防いだのは(ちょっと変わり者だったかも知れないですが・・)お父さんの働きだったのでしょう。

父の論理では、人と違っているいるのは良いことであり、私は家では常に「皆とは違う人間になれ」と言われてきた。他人に迷惑さえかけなければ、好きなだけ個性的でよかった。
ところが家の外ではそれは通用しない。学校では、ことあるごとに「みんな同じでなければ」という論理にぶつかる。

それは高機能自閉症やアスペルガー症候群(当時は泉さんも、そうとは分からなかったのですが)の子どもにとっては、いじめがすぐにもおこってしまう環境だったわけです。
そして残念ながら、今も変わらないのが日本の現状なのかも知れません。

あくまで私を「登校拒否児」「問題児」扱いする学校との話し合いでらちが明かないと見ると、父は市立学校を統括する市の教育長に直接苦情を持ち込んだ。これは効いた。・・・・
もしも親までが先生の言うことを本気にして、私に「皆と仲良く」「もっと好かれるようになれ」などと言い出していたら、きっと私は自分の家でさえ安心できなくなり、よりどころを失って精神的に破綻してしまっただろう。


そうですね。人と違っていることを余儀なくされる自閉症児にとって、親は「誰がなんと言おうと」子どもの最後のよりどころになってやることが、何より大切ですね。
もっとも、作者のご両親も、作者が成人して自身が定年を迎えると、あっさり田舎に引っ越して、海外旅行を楽しんだり農園での生活に入り、親離れ・子離れしていくことになります。

その後、外国での生活では適応できた作者ですが、この均一性が美徳とされる日本の社会では・・・一人で生きていくのは大変だったと思います。
縁あってご主人とも結ばれるわけですが、「ごくわずか普通の人と違う脳を持つ」作者にとっては、社会生活も結婚生活も、やがて苦しいものに変わっていきます。
過食嘔吐やアルコール依存など、生活の荒廃の中に落ち込んでしまった状態で、作者がどのように苦しみながらもその中で自らに誠実に生きてきたか・・・それは、実際に本書を手にとって感動していただきたいと思います。


ただ、その状態から抜け出すきっかけになった、正しい本人への障害の告知の大切さ。
これだけは、全ての人に知っていただきたいと思います。
作者は30歳を過ぎて、やっと正しい診断名と出会い、救われることになります。

高機能の子どもさんをお持ちの方はもちろん、知的障害を伴うお子さんを育てていらっしゃる方にとっても、わかるような手段で、適切な時期に、それからの子どもの人生を支援するために、きちんと障害の告知をしていかねば・・・そんな思いを教えていただいた一冊でした。

「育てる会 会報 69号」より 2004.1)

泉 流星さんWebサイト「Alien Mind」  http://members.ld.infoseek.co.jp/alien_mind/


  目次

まえがき

第1章 地球に生まれる

最初の記憶
静かな赤ん坊 ― 両親の出会いから、私が生まれるまで
友だちのできない子 幼児の頃
なぜ叱られるのかわからない
安心できる場所
おけいこ事

第2章 ここはどこ? “外”の世界と初めての遭遇

幼稚園に入る
夜の世界
仲間はずれの始まり 小学校に入って
書くこと
私の外見
バイキンと呼ばれて ― 中学校時代
異分子だということ
別の世界への憧れ
自分に合った勉強法を編み出す
チームプレイは苦手
絵を描くこと
高校進学 自分なりの受験勉強
自由な雰囲気の高校で

第3章 私の居場所はどこに?

アメリカ留学
トラブルに対処する
私の、陽の当たる居場所
初めて、教室でものを学ぶ
新しい家族との生活から、帰国へ
帰国
初めての精神科
バブル期の東京で、大学生活をはじめる
人間でない人間
社交生活、人とのつき合い
心身の健康
言語学と翻訳の世界 ― 居心地のいい仕事の発見

第4章 挫折

就職活動
育った家を壊す
卒業旅行と戦争体験
使えない! 働けない! 動けない! バブル崩壊と私の失墜の関係
         ― 社会人として、仕事を始める
接客業での大混乱
事務職でも勤まらない
生活の荒廃
ふたたび、精神科へ
創造的な活動
読書と映画
生協を退職する

第5章 地球人と暮らす

世界を巡る船からの眺め 世界青年の船:62日間の航海
現在の夫と出会う
社会勉強としての仕事
彼との再会から、結婚まで
一年目の結婚生活、最初のつまずき
自分の家だという気がしない
またまた精神科へ
とまどい、不安、ケンカ
海外転勤と仕事騒動
シンガポール生活
「元気の出る会」との出会い
パソコンとの相性
良い妻、悪い妻
帰国、その後沈没
お酒、孤独、混乱

第6章 立ち直りに向かう日々

転機
危篤になる
やり直しの始まり
復活への道
泳ぐこと
過食嘔吐
それでも前途多難
夫婦関係の再建
私は何? 注意欠陥障害って?
アスペルガー症候群?
診断をうける

第7章 自分を探す道程

診断、その後
自分の本を書く
出版社との話し合い
書き直し、そしてまた書き直し
本を書いて、自分についてわかったこと
これからの私


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