sorry,Japanese only
『 自閉症の僕が跳びはねる理由 』
会話のできない中学生がつづる内なる心
東田 直樹:著 エスコアール出版部 定価:1600円+税
ISBN978-4-900851-38-2 C0037 \1600E
さて、評価の難しい本です。
養護学校中等部に通う東田直樹くん、話し言葉はあまりもたずに、自閉度も重度と思われるカナータイプの少年です。これまでも高機能自閉症の方や、アスペルガー症候群の方が、自らを振り返って、その感覚や受け取り方、考え方の違いを著してくれた本が出版されるようになり、私たち非自閉圏に住む人にとって参考になることが多かったです。それは、周りから推測するのではなく、まぎれもなく自らの言葉で語ってくれたからだと思います。
それに対して本書は、題名のように、跳びはね、パニックをおこし、会話もままならないカナータイプの少年が、質問に答える形で、自らの住む自閉症の世界を語っている・・・・という本です。
もし、それを信じるとするなら、知的障害を伴い、言葉を持たないと言われる重度の自閉症児の中にも、かくも論理的で情緒あふれる、ある意味普通児よりもはるかに冷静で大人びた世界があるとういう希望の持てる本です。
まさに親からすると、想像をはるかに超える、素晴らしい事実の発見かもしれません。
しかし、最初に評価が難しいと書いたように、それが綴られたのは、どうやら会話でも鉛筆でもパソコンでもなく、FC(ファシリティテッド・コミュニケーション)によって行なわれたということです。FCについては、私も別の所でかきましたが(親の目からみた自閉症に対する問題書籍)、日木流奈氏の例で示したように現在の時点では懐疑的です。
本書の東田直樹くんの会話の様子をテレビで見ましたが、やはり文字盤を次々と押さえていくのをお母さんが読んでいくというやりかたで、ローマ字を使ったコックリさんという印象でした。そのスピードは速くて、果たして正しく押さえているのか・・?、あるいはお母さんが口にする文字をすばやく押さえているのではか・・・?、撮影したビデオのクローズアップと音声を同時にスローで再生すれば、真偽のほどは分かるかもしれませんが、そんな頭から疑ってかかるような行為が容認されるとも思いません。
たしかに、我が家の息子哲平も、知的障害にもかかわらず、試しにローマ字を教えてみたら、その規則正しさにアッというまに覚えて、いまでは一人でパソコンに向かって好きな映画のネットサーフィンなどを楽しんでいますし、空中に指で文字らしきものを書くこともあります。その意味で、頭から直樹くんの文章を全く否定してしまうわけではありません。
お母さんがいないところで、一人で、ゆっくりでもいいからパソコンを使ってここに書かれたような文章を残せたとしたら、信じられるものでしょう。
それまでは、私もこの本の評価を留保したいと思います。
あえて私が、オヤ?と疑義を感じたところを一つ挙げるとしたら、こんなところです。
「 痛みに敏感だったり鈍感だったりするのはなぜですか?」
自閉症の人の中には、髪や爪など痛いはずがないの、切られると大騒ぎする人がいます。逆に、見るからに痛そうな怪我をしているのに、平気な人もいます。
これは神経の問題ではないと思います。きっと心の痛みが体に現れているのだと僕は思うのです。
記憶がよみがえることをフラッシュバックとも言いますが、僕たちの記憶には、はっきりとした順番がありません。髪や爪など痛いはずがないのに切られると大騒ぎする人は、悲しい記憶がその事と結びついているのでしょう。
散髪や爪切りは最初から嫌がっていたし、思い当たることがない、と言う人もいるでしょう。・・・・
このような感覚やフラッシュバックについての話は、私たちも講演会や専門書の中で目にしたことがあり、内容自体は納得できる話です。
でも直樹くんが自らの体験としてではなく、他の自閉症児・者を例にだして、「思い当たることがない、と言う人もいるでしょう」 そんなことばを直樹くんに直接告白した親や関係者の方がいたかどうかは疑問ですし、「自分で読む時には絵本を読みます」という直樹くん、どこでフラッシュバックという知識をしいれる機会があったのでしょう。
どうしても、ファシリテートしたお母さんの言葉のように思えてしまいます。
そして、そんな目でみると
「これはスケジュールや時間に関して、視覚的に表示しない方がいいということで、予定は前もって話してもらった方が良いのです」 という文章も、お母さんの取り組んでいる「抱っこ法」関係者が抱いている、TEACCH的な手法に対する反発による言葉のように見えてしまいます。
知的障害を伴う自閉症児の中にも、私たちと変わらない、むしろそれより優れている理性や論理的思考が隠れており、ただそれを表現する方法が見つからないだけ(直樹くんの場合は、文字盤によるFCで見つけたということになるわけですが・・・)、という考えは、とても魅力的に見えるのですが、もう20年近く息子と暮らしていて、残念ながらそう信じるのは難しいというのが正直なところです。
それよりも、知的障害を伴う自閉症のままでも、楽しく幸せな、充実した人生を送ることはできるはずです。
真偽は別として、お母さんだけが読み取れるFCに頼っているだけでは、自立への道は難しいのではないでしょうか。
この本に対する評価は、数年後、直樹くんが社会に出て、親離れしてどんな人生を歩き始めるか・・・もし、それが公表されるとしたら、改めてその時させてほしいと思います。
それまでは、申し訳ないですが、私の中では「お薦め本」ではなく、「注意して読むべき本」に分類させていただきます。
(2007.8)
目次
はじめに
第1章 言葉について 口から出てくる不思議な音
1 筆談とは何ですか?
2 大きな声はなぜ出るのですか?
3 いつも同じことを尋ねるのはなぜですか?
4 どうして質問された言葉を繰り返すのですか?
5 どうして何度言っても分からないのですか?
6 小さい子に言うような言葉使いの方がわかりやすいですか?
7 独特の話し方はどうしてですか?
8 すぐに返事をしないのはなぜですか?
9 あなたの話す言葉をよく聞いていればいいですか?
10 どうして上手く会話できないのですか?
* ちょっと言わせて 足りない言葉
第2章 対人関係について コミュニケーションとりたいけれど・・・・
11 どうして目を見て話さないのですか?
12 自閉症の人は手をつなぐのが嫌いですか?
13 みんなといるよりひとりが好きなのですか?
14 声をかけられても無視するのはなぜですか?
15 表情が乏しいのはどうしてですか?
16 体に触れられるのは嫌ですか?
17 手のひらを自分に向けてバイバイするのはなぜですか?
* ショートストーリー ずるっと滑った
18 ものすごくハイテンションになるのは嬉しい時ですか?
19 フラッシュバックはどんな感じですか?
20 少しの失敗でもいやですか?
21 どうして言われてもすぐにやらないのですか?
22 何かをやらされることは嫌いですか?
23 何が一番辛いですか?
24 自閉症の人は普通の人になりたいですか?
* ちょっと言わせて 飛行機が好き
第3章 感覚の違いについて ちょっと不思議な感じ方。何が違うの?
25 跳びはねるのはなぜですか?
26 空中に字を書くのはなぜですか?
27 自閉症の人はどうして耳をふさぐのですか?うるさいときにふさぐのですか?
28 手や足がぎこちないのはどうしてですか?
29 みんあがしないことをするのはなぜですか?体の感覚が違うのですか?
30 痛みに敏感だったり鈍感だったりするのはなぜですか?
31 偏食が激しいのはなぜですか?
32 物を見るときどこから見ますか?
33 衣服の調整は難しいですか?
34 時間の感覚はありますか?
35 睡眠障害はどうしておこるのでしょうか?
* ちょっと言わせて 夏の気分
第4章 興味・関心について 好き嫌いってあるのかな?
36 色んな物を回しているのはなぜですか?
37 手のひらをひらひらさせるのはなぜですか?
38 ミニカーやブロックを一列に並べるのは、なぜですか?
39 どうして水の中が好きなのですか?
40 テレビのコマーシャルを好きなのですか?
41 どんなテレビ番組が好きですか?
* ショートストーリー どこかで聞いた話
42 電車の時刻表やカレンダーをどうして覚えるのですか?
43 長い文章を読んだり勉強したりするのは嫌いですか?
44 走る競争をするのが嫌いなのですか?
45 お散歩が好きなのはなぜですか?
46 自由時間は楽しいですか?
47 自閉症の人の楽しみをひとつ教えてくれますか?
* ちょっと言わせて 大仏様
第5章 活動について どうしてそんなことをするの?
48 すぐにどこかに行ってしまうのはなぜですか?
49 すぐに迷子になってしまうのはなぜですか?
50 どうして家を出て行くのですか?
51 なぜくり返し同じことをやるのですか?
52 何度注意されても分からないのですか?
53 どうしてこだわるのですか?
* ショートストーリー カラスとハト
54 合図がないと動かないのはなぜですか?
55 いつも動いているのはなぜですか?
56 視覚的なスケジュール表は必要ですか?
57 どうしてパニックになるのですか?
58 自閉症についてどう思いますか?
短編小説 側にいるから
おわりに
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