sorry,Japanese only

『 自閉症の特性理解と支援 』

藤岡 宏:著 ぶどう社 定価:2000円+税
ISBN978-4-89240-190-9 C0036 \2000E

以前、育てる会でも講演をお願いした愛媛の「つばさ発達クリニック」の藤岡宏先生の書きおろされた本書です。副題に「TEACCHに学びながら」とあるように、先生がこれまで臨床の現場で、本人や家族を支援しながら歩いてこられた道がわかる、わかりやすくて暖かい一冊となっています。
本書は3部構成で、まず自閉症の特性をわかりやすく解説するところから入っていますので、初めて専門書を手にする方にもお薦めできる形になっています。そして実際にどのように支援していくか、ということになるのですが、ここでは藤岡先生が関わられている、今治の「ひよこ園」でTEACCHプログラムを取り入れて支援している様子を多くの写真を添えて示されています。
視覚的支援は自閉症児だけでなく、私達にとってもありがたいもので、具体的な写真で見せていただくと本当にわかりやすいものとなっています。
もちろんそれだけではなく、私達がTEACCHを表面的にとりいれようとした時に、うっかりすると陥りやすい落とし穴についても注意を促してくださっています。
こんな失敗を耳にします。口で伝えてわかる部分は口で伝え、わからない部分だけスケジュールカードを使っていたら、子どもは、はじめはカードの指示に従ってくれたけれど、そのうちカードを投げ捨てるようになった。そんな話です。考えてみましょう。
「おやつですよー」と言われるのと、「勉強しなさーい」と言われるのと、どちらが耳に届きやすいでしょう。誰でも、好きなことはわかりたい、嫌いなことはその逆です。口で伝えてわかることの中には好きなことが多いのかもしれません。口で伝えてわからないことの中には嫌いなことが多いのかもしれません。
だとすれば、口で伝えてわからない時だけスケジュールカードを使っていれば、子どもにとっては〈嫌いなものの時に、スケジュールカードが出てくる〉ことになってしまいます。これが繰り返されると、彼の中で〈スケジュールカード→嫌いなことをやらされる〉という図式ができてしまうでしょう。
スケジュールを、子どもが知りたいこと、楽しいことを予測するための手がかりとして使っていかないと、こういう落とし穴にはまってしまいます。
子どもが 〈スケジュールは自分を助けてくれるもの〉と思うようになれば、スケジュールカードをとても大切にするようになります。カードがないと、自分で捜すようになります。スケジュールとは本来、そのようなものなのです。
TEACCHの手法を取り入れようとして、うまくいかないと言われるケースにはこんな原因があるのかもしれませんね。
また、TEACCHが子どもたちからのコミュニケーション自発を促し、「ノー」と表現できることを教え、その選択を大切にするすることから、「がまんの苦手なわがままな子にならないか」、という疑問にもわかりやすく答えられています。
ここで留意していただきたいのは、「ノー」の表現をすることと、その要求が通るかどうかは、あくまで別問題だということです。
新しい表現を教えるわけですから、はじめのうちは、それが通るような形の対応方法をしてあげないと表現方法として定着しませんが、いったんそれが定着したら、「ノー」の表現をしてもそれが通らないこともあるということを対応の中で教えていくのです。
嫌なことを「いや」と上手に表現できなければ、小さい頃は丸呑みできても、思春期に入るとそうはいかなくなります。あとで必ずツケがまわってきます。「ノー」の表明、その受け止めと投げ返しというキャッチボールのような相互交渉を通して、子どもの耐性は育っていきます。
本当にわかりやすいことばなのですが、深く感じるお話の数々です。それは藤岡先生が医療の現場で、私たち親や家族に寄り添った温かい思いの支援を続けてくださっているからでしょう。
診断をお伝えした日、肩を落として帰って行かれる親さんの後ろ姿を見るのは、診断する側にとってとても辛いことです。泣かれたりすると、もっといいお伝えの仕方はなかったかと、あとで悔やみます。
でも、そこから療育が始まり、親さんにやがては笑顔がもどってきて、いつの日か、
「先生、この子、こんないたずらをするようになりました」
「この子が何を考えているか、少しわかるようになりました」
と、小さな変化を弾んだ声で伝えてくれるようになる、そんな日が来ると信じたいのです。そういう人たちをこれまでたくさん見てきたからこそ、今度もそうなってほしいと、いつも思うのです。
もし、過去に戻れるとしたら、我が家もこんな思いを抱く先生に告知をしていただきたかったな、というのが正直なところですが、藤岡先生が日本の全ての自閉症児を診られるわけでもありませんよね。今は先生が本書を世に出していただいたことに感謝しましょう。
また本書の題名にしても、先生の人柄そのままに、あくまで実直に「自閉症の特性理解と支援」なので、書店の棚でもセンセーショナルに人目を引くわけではありませんが、最近の本のなかでは間違いなくお薦めの一冊にあたると思います。
(「育てる会会報 121号」 2008.5)

  目次

はじめに

  第1部 自閉症の特性を理解する

1章 コミュニケーションに関する特性
1 相手の意図がうまく汲み取れない
2 相手に自分の意思をうまく伝えられない
2章 見え方・聞こえ方・感じ方に関する特性
1 自閉症の人の世界
   (1) 秩序のない、混沌とした世界
   (2) 〈どこから〉 〈どこまで〉が、わかりにくい
   (3) いつまでも忘れられない
2 感覚が鋭すぎる(逆に、鈍すぎる)
   (1) 聴覚過敏
   (2) 触覚過敏
   (3) 味覚過敏
   (4) その他の感覚特性
3 気づかれにくいさまざまな特性
   (1) ここというところに注意を向けるのが苦手
   (2) 完成までの手順を頭に描くのが苦手
   (3) 因果関係をとらえるのが苦手
   (4) ことばの裏を読むのが苦手
4 〈特性理解〉 の視点を持って支援を
3章 特性から見た 〈視覚的手がかり〉 の意味
1 耳からのことばを理解するのはむずかしい
2 目で見て理解するのは得意
3 自立的に行動できることの大切さ
4 手がかりのない中で生きることを強いる
5 思春期になって現われる問題
4章 自閉症と発達障害について
1 自閉症の3つの基本症状
   (1) 社会性の障害
   (2) コミュニケーションの障害
   (3) こだわり
2 自閉症と発達障害
   (1) 高機能自閉症
   (2) アスペルガー症候群
   (3) AD/HD
   (4) 「発達障害」という用語について
   (5) 「自閉傾向」ということばについて
3 診断は支援への橋渡し
* 子どもの行動にどう対処するか − 答えを導き出すための道筋

  第2部 特性に沿って支援の方法を考える

5章 受信を助けるための工夫
1 場所で環境の意味を知る − 物理的構造化
2 時間の見通しを持つ − スケジュール
3 スケジュールのいろいろな工夫
4 活動の流れと終わりを知る − ワークシステム
5 見てすぐわかる - 視覚的構造化
6 見てすぐわかる、いろいろな工夫
7 <構造化> − 二つの世界のかけ橋
6章 発信を助けるための工夫
1 コミュニケーションは楽しい、と思えるように
   (1) コミュニケーションしようとする “心”を育む
   (2) コミュニケーションの機会をつくる
   (3) 楽に使いこなせる方法を身につけさせる
2 確実に伝えられる方法を教える
   (1) カードを使うと、話しことばが伸びないのでは?
   (2) 相手の注意を引く方法を教える
   (3) 「ノー」を正当に表現する方法を教える
3 コミュニケーションカードのいろいろ
7章 生活の中のコミュニケーション
1 ことばを話せる子どものための工夫
2 スケジュールを使って、卒園式の練習
3 手順書を使って、ボウリングを楽しむ
4 コミュニケーションの力をつけてくると
* <よく見られる誤解> について考える

  第3部 医療・親さん・地域

8章 親さんんとの出会い、TEACCHとの出会い
1 自閉症の人との出会い
2 「土曜学級」で出会った親さんたち
3 TEACCHから学んだこと
4 発達クリニックの現場から
9章 医療の役割と療育との連携
1 医療の役割
   (1) 診断の意味
   (2) <親の育て方のせいでなったのではない>ことの確認
   (3) 薬を飲む際のルール
   (4) 検査
   (5) 医療相談、カウンセリング、告知
   (6) 福祉制度や地域資源、参考図書の紹介
2 医療から療育へ
   (1) 調査の方法
   (2) 調査の結果
   (3) 調査結果についての考察
10章 自閉症の子を持つ親さんの世界
1 はやと君のお母さんの手記
2 私たちが親さんんと協働する時
11章 学校と地域への願い
1 学校の先生方へのお願い
2 素晴らしい校長先生たちとの出会い
3 子どもと親さんにやさしい地域に
* この本でお話してきたことを、まとめてみます

「お薦めの一冊」目次へ