sorry,Japanese only

『 ぼくとクマと自閉症の仲間たち 』

トーマス・A・マッキーン:著  ニキ・リンコ:訳 花風社 定価:1600円 + 税
ISBN4-907725-56-6  C0098 ¥1600E


 ちょっと変わった題名で、もうお分かりかもしれませんが、ご本人の自伝です。
自閉症は4:1ぐらいの比率で男性が多いはずなのに、なぜか本人の自伝は女性の方の本が多いですね。ドナ・ウィリアムズさん、テンプル・グランディンさん、グニラ・ガーランドさん、ウェンディ・ローソンさん、リアン・ホリデー・ウィリーさん、森口奈緒美さん、そして、本書の訳者でもあるニキ・リンコさん・・・・男性で思い出すのはケネス・ホールくんぐらい。でも彼は10才の少年なので、成人した男性の書かれた本が日本で出版されるというのははじめてのような気がします。

 トーマス・マッキーン氏は、幼い頃から「困った子」と呼ばれて育ち、少年時代には精神障害者の施設で数年を暮らす経験もします。
 本書のちょっと変わった日本語版の題名は、訳者のニキ・リンコさんがつけられたのかも知れませんが(それはそれで、この本の雰囲気をうまく表しています)、原題は「Soon Will Come The Light」です。冒頭の詩
「じきに明るくなるんだから」の一部です。

だいじょうぶだよ、きみは愛されてるんだ、
それさえ知ってれば、あとは問題ないさ。
暗いからって、怖がることはない、
じきにまた明るくなるんだから。
星々は輝いているし、暖かい夜だし、
きみもそのうち元気になれる。
さあ 横になって、目をつぶりなさい、わが子よ、
今夜は 安心してやすみなさい。

「わが子へ」のメッセージになっていますが、これはマッキーン氏が自らの少年時代に向けて書いた詩だと思います。
「きみは愛されてるんだ、それさえ知ってれば、あとは問題ないさ」
ドナ・ウィリアムズさんも「Nobody Nowhere」と書いたように、自閉症の方はこの世界に自らの居場所がないという思いに陥ることが多いようです。
トーマス少年もそんな思いを抱いて成長していきますが、やがて大人になり自らが「自閉症」であることを知るのです。
そして、ある日、電話帳で探しあてたアメリカ自閉症協会の支部ミーティングにでかけることになります。

「今日は初めての方が多いですね。では、まず全員、自己紹介といきましょうか」
何てこった。ぼくも自己紹介をさせられるのか。一人、また一人、参加者が挨拶をしていく。
「はじめまして、名前は(   )といいます。(  )歳になる自閉症の子どもがいます。」
結論を出すべき時がきた。緊張のあまり汗が出る。
「はじめまして。トーマスといいます。ぼくは(突然の決断を迫られたがゆえの間)、自閉症の子ども本人です」

 部屋はしんと静まりかえった。人は驚くと口をあんぐり開けるというけれど、ことばどおり、本当に口があんぐりと開くのがいくつも見えた。

   ・・・・・・・・

 会合が終わると、みんながぼくと握手をしに来て、ぼくに会えて本当にうれしい、来月もきっと来てほしいと言っていく。「私たちには、あなたが必要なんですよ」と言うのだ。

 はぁ? なんだって? このぼくが? 必要とされてるだって? いつからそんなことになったんだ? ぼくはこれまで、どこへ行こうとたいていはのけ者にされるのが当たり前だったのに、ここへきていきなり、追いだされるどころか逆にまた来てほしいだって? 生まれてから今日まで、憎まれ、罰を与えられてきた原因と、同じことが理由で、今度はほめられてるだなんて!

 こうして、彼は自らが必要とされる場所を見つけることができたのです。現在はアメリカ自閉症協会の委員として、自閉症の人々を代表して活動を続けられています。
 自閉症児に限らず、自分は必要だとされる居場所を見つけることは誰にとっても幸運なことでしょう。そして残念ながら、今の社会ではわが子たちがそんな場所をみつけにくいことも事実でしょう。本書ではマッキーン氏は自らの手で道を切り開かれましたが、そんな場所を見つけられるように支援していくことも親の務めの一つであると思いました。

 こんな高機能で優れた力を持つ氏ですが、やはり子どもたちの仲間であることは間違いありません。最後に、そんな楽しい氏の「クマの買い方」の中の1節です。

「5. 耳も非常に大切だ。クマの耳は実用品なのだから。
孤独なときや気分がふさぐとき、クマの耳はかじる目的に向いている。濡れるほどしゃぶる必要はない。ただ、軽く歯を立てるだけでじゅうぶんな効果がある。噛みやすさを考えると、ピンと立っている耳がいい。・・・・」

「育てる会会報 67号」 2003.11)


  目次

じきに明るくなるんだから

最初に

PART 1 ぼくと自閉症

1 困った子は閉じこめろ
2 施設で見たあれこれ
3 世界に参加してみる
4 自閉症との出会い
5 自閉症について説明しよう
6 「自閉症のプロ」として

PART 2 ぼくと友だち

大事な友だち、グウェンドリンのこと
グウェンドリンのことば
友情にありがとう
トムとの出会い ・・・ マイラ・ローゼンバーグ

PART 3 仲間たちのために言っておきたいこと

聴覚訓練
トーマス流ストレスのなだめ方
クマの買いかた
ぼくのこれから

PART 4 ぼくの中の詩人

詩の序文

訳者あとがき


 「お薦めの一冊」目次へ