『 学校 V 』
山田 洋次:著 角川文庫 定価:400円 + 税
ISBN4−04−346001−5 C0193 ¥400E
松竹映画 「学校 V」の脚本を元にしたストーリー・ブックです。
「学校 V」は、自閉症のトミーくんを主人公にした鶴島緋沙子さんの連作小説「トミーの夕陽」と、NHKで放映された職業訓練校を舞台にした「われらの再出発」というドキュメンタリー ・・・・ それが、山田洋次監督の中で一つになり、生まれたドラマです。
客観的(?)に見れば、不幸がいっぱい (^_^;) のカーサンです。ご主人を過労死で亡くし、自らは勤め先からリストラで首になり、一人でなんとか自閉症の息子トミーとの生活を維持するために職業訓練校に通います。やっと卒業して就職できたと思ったら、乳癌と診断され手術台へ・・・
でも、流れるシーンはどのシーンも救いのある、前向きなものです。
人がせいいっぱい生きていれば、大変なことはいっぱいあっても不幸せではないと思います。
リストラされたお父さんたちが集るビル管理科の職業訓練校ですが、そこで知り合う人たちとの交流は、会社で定年まで猛烈サラリーマン生活を続けていたら知らなかったドラマでしょう。
たとえば、私も息子Teppeyが自閉症でなかったとしたら、人生というもの、人のもつ意味についてあまり考えないで暮していたと思います。
息子が障害を持ったことは幸せとは思いませんが、少なくとも私にとっては、より深く “生きる” ことの意味を考えさせられたということで有意義なものに感じます。
息子に “幸せな人生”をおくらせることを考えているうちに、自分の人生についてもいろいろ考えさせられました。あらためて、そんなことを感じさせられた映画でした。
この映画の印象、一言でいうと 「泣き笑い」・・・悲しいけれど、その中に生きることへの賛歌を感じました。『 「将来のこと心配ですか?」
「心配じゃないといえば嘘になるけど、でもいずれ私は死ぬんだろうし、この子はこの子でなんとか生きていってくれるんだろうと思ってるんです。楽天的なんですね。この子に死んでほしいとか、自分が死にたいなんて思ったこともないんです」
紗和子は、ふと遠くを見る目になった。「ただ、一緒に死ねるなら死んでもいい、と思ったことは1度だけあるな。
蔵王のケーブルカーに乗って、この子、恐くなって大暴れしたとき、ああもう、このままケーブルが切れて落ちてしまったらいいなって思ったの。
でもね、帰ってきて夫に話したらものすごく怒られました。涙ポロポロ流して怒りました。
あの人があんなに怒ったには、あの時だけでした。」 』映画のシーンを思い出して、またジーンとなりました。
そういえば、わたくし事ですが、この映画でトミーのカーサンは、職業訓練校に通いますね。
我が家のカーサンも、将来作業所を作った時に役に立てば・・と、哲平が小学校3年の時に、職業訓練校の木工科に通いました。映画と同じくユニークなおっちゃんたちが集っていて、すごく楽しかったようです。
その意味でも、哲平とトミーくんがダブって見え、しみじみとした、心のなごむ ( 決して、ハッピーエンドというわけでもないのに、人のもつ温かさを感じる ― みんなを包みこんで、ゆったりと時が流れるのを感じるような ) 映画と小説でした。(2002.11)
目次
「学校 V」 と ジャーナリズム
学校 V
解説 小説 『 トミーの夕陽 』が映画になるまで ・・・ 鶴島 緋沙子