『 トミーの夕陽 』
鶴島 緋沙子 :著 つげ書房新社 定価:1700円 + 税
ISBN4-8068-0397-9 C0093 \1700E
「トミー・・!」 この呼び掛け、映画「学校 V」を見られた方には、トミーを演じる黒田勇樹くんとお母さん役も大竹しのぶさんの、淡々とした中にも精一杯生きている、自閉症の青年とお母さんのシーンを思い出されて、ホロッとされる方も多いと思います。
「学校 V」の原作の一部に使われた小説です。連作という形で自閉症の青年「トミー」くんの日常が綴られています。
ここまでリアルに自閉症というものの、大変さ、いじらしさ、いとしさを表しているのは・・・そうです、作者の鶴島さんは、自閉症児「トミー」の実際のお母さんなのです。もちろん、小説ですから設定はフィクションで、鶴島さんは未亡人ではなく、夫婦で「トミー」くんを育てている普通のお母さんです。
でも、この小説にちりばめられて数々のエピソード、これは間違いなく自閉症児「トミー」くんのたどってきた道なのでしょう。この本を読んだり、「学校 V」を見た自閉症児のお母さんたちは、みんな共感の思いも包まれたと思います。
みんな同じようなせつなさ、いとおしさを感じながら子育てを頑張ってきたと思います。物語は小説らしく、「トミー」くんの、心の中の独白と、表にあらわれるカーサンとのかけあいで話がすすんでいきます。
テンプル・グランディンさんやドナ・ウィリアムズさんの自伝を読んでいて感じることですが、低機能の子どもたちでも昔のことを鮮明に憶えているように、彼らも「トミー」くんと同じように、独特な感性の世界で生きているのではないでしょうか。この連作小説に中で、印象に残っているのは「恋」の中での、トミーとクラスメートの嵐山さんの雨の中のシーン。
『 「明日の次は何曜日」
気持ちが落ち着かない僕は、とりあえず僕の十八番の質問、日付と曜日を聞いてみた。
「又、又。今日が月曜日だから火曜日に決まっているでしょ。それより、トミー、私の鞄持ってよ。こっちは傘もってるんだからさ」鞄を持っている僕の右手に、自分の鞄を押し付けると、嵐山さんは左手に傘を持ち直し、右手を僕の腕に差し入れた。』
もちろんこれは小説ですが、トミーは17年たっても、この好きだった嵐山さんに、あいあい傘で送ってもらった雨の帰り道の甘酸っぱいシーンを大切に憶えています。
できれば、Teppeyにもそんな思い出を作ってやりたいな・・・そんな思いにかられた物語でした。
(2002.7)
目次
きんきんきらきら 高城 修三
花火
恋
劇団 「 ブラカマン 」 スタート
誰も知らない夏
トンネル
トミーの夕陽
風の家
心潤う癒しの小説 瀬戸内寂聴