『 変光星 』
ある自閉症者の少女期の回想
森口 奈緒美:著 飛鳥新社 定価:1650円 + 税
ISBN4−87031−260−3 C0095 P1700E
(飛鳥新社版は現在品切れです。OD(オンデマンド)版の注文は
ISBN4-87031-901-2 定価:3000円 + 税 でどうぞ)復刊されました!!(2004.1)
花風社 定価:1800円 + 税 ISBN4-90772-559-0
高機能自閉症の森口奈緒美さんの自伝、一作目です。
ここでは幼児期から少女時代、中学の卒業を迎えるまでの15年間が綴られています。それは森口さんにとってつらい時代だったのかもしれません。
「変光星」というタイトル、「変な転校生」をもじって自分を呼んでいるように、お父さんの仕事の都合で転校が続く日々のようだったそうです。そしてその行く先々の学校で、障害を理解される前に「変な奴」とばかりに、集団から排除されていじめにあい続けたそうです。
たしかに高機能自閉症というのは、なかなか一般には理解されにくい障害です。ともすれば「わがまま」「自分勝手」「協調性がない」などと誤解され、しっかりとしたサポートがないとクラスでも攻撃の対象になりがちでしょう。
森口さんの場合、就学前から病院で診断を受け、療育所に通ったり、ヒライ教授(おそらく平井信義先生)のヒラメのキャンプに参加したりと、すでに障害という認識はあったはずですが、それが学校という場うまく支援につながらなかったようです。
子どもは「天使」と形容されることもありますが、一面残酷な面も持っています。指導者たる先生の適切な援助がないと、異質なものへの攻撃がおこってしまいがちです。その意味で、30年ほど前の日本の教師には、この障害に対する理解はほぼ 0 であったようです。
本来は味方で守ってくれるはずの先生までもが、異分子の排除に向かった場合・・・曰く 「いじめられる側にも原因がある」「どうしていじめられるか、よく考えなさい」・・・変光星、別の輝きをする変わった星、の森口さんにはせつない日々が続きます。
もちろん、当時でも本当の意味で教育を考えている学校もありました。小学2年生の時の伊勢原町立成瀬小学校、「一人ひとりを大切にしてくれる」小学校、この学校ではいじめもなく楽しい暮らしが、次の引っ越しまで続いたそうです。
「もしできるなら、この土地と学校に、ずっと居続けたかった。」
もし、そうであったらこの「変光星」の内容も随分と違ったものになっていたでしょう。
今、私たちが取り組まなければならないのは、自閉症やアスペルガー症候群の正しい理解を広めるとともに、この「一人ひとりを大切にする」教育を(お題目ではなく)求めていくことでしょう。「変光星」は読んでいて、せつなくなってくる本です。できれば、過去の教訓としていきたい本ですが、残念ながらそれから30年たった今の教育現場でも、高機能自閉症やアスペルガー症候群、ADHDの子ども達が、ともすればいじめの標的となっている、という話を耳にします。彼らの多くは普通学級で学び、そしてその担任の先生は今でもこれらの障害について理解していない先生が多いようにも見うけられます。
そんな先生にはぜひ読んでいただきたい本書です。
彼ら、彼女らがどんなにつらい思いをして、それでも健気にコミュニケーションをとろうとして・・・確かにそのやり方は拙いかもしれませんが、うまくコミュニケーションをとること自体が苦手な障害なのです・・・学校生活をおくっているのかを知っていただきたいと思います。
森口さんは、本書のあと、青年時代までを描いた次作 「平行線」 を出版されました。あわせてお読みください。
また、森口さんは HP 「自閉症納言のホームページ」も開設されています。こちらもどうぞご覧ください。
(2002.9)
目次
プロローグ
走行記録
出生
CHAPTER T 幼年時代
幼児期
藤井寺
乗り物
脱走
幼稚園
音楽教室
療育所
孫悟空
黄色いリボン
天使(エンジェル)のハミング
ヒラメのキャンプ
魔法のテープ
CHAPTER U 小学校低学年時代
小学校入学
不協和音
漢字
埋め立て
大湊
プール
バス通学
スキー
音楽のレッスン
消える下敷き
不運
白鳥
かまくら
伊勢原
松戸
通学
いじめ
羅針盤
変身した分度器
作文
唯一の勝利
写生
砂場の隠れんぼ
CHAPTER V 小学校中・高学年時代
目黒
仲良しミエちゃん
マリームのないコーヒー
先生のおみやげ
将来の夢
カラーテレビ
お星様が一杯
長〜い国名
百点満点
近所
父親
マヨネーズ
世相観
パンダ見学
長崎
五年生
方向感覚
オイルショック
自由な日々
世田谷
六年生
写生会
校歌
音楽鑑賞
期待
目覚め
気紛れ星
見聞録
寄せ書き
CHAPTER W 中学校時代
中学一年生
中学校入学
授業
新たないじめ
相談
重たい立ち読み
白紙のカレンダー
いとこ
ダムの底に消えた作品
英語の先生
スズキさん
ピアノ
プラネタリウム
変光星との出会い
中学二年生
アルゴル
空飛ぶパン
合宿
タキザワ
バキン
裏目のポスター
死神
メメント・モリ
コマチ
水泳委員
修学旅行
中学三年生
小人の独り言
普通学級
コロンボ警部
球技大会とマリオネット
合唱会
日直当番
塾
D印のフリースクール
受験
終章
エピローグ
1995年の今
学校という場所
自閉症と私
カルチャーショック
賜物
対位法とハーモニー
「環境問題」も「教育」のせい?
自閉症者と私たちの未来
自閉症者として、日本人として
あとがき
解説 河野万里子