sorry,Japanese only

『 自立への子育て 自閉症の息子と共に・・2

明石 洋子:著 ぶどう社 定価:1700円 +税
ISBN4−89240−163−3 C0036 ¥1700E


 明石洋子さんの「ありのままの子育て」に続く、第2巻です。
前著は徹之さんの少年時代、どんな思いで育てられ、社会に対してどんな働きかけをして仲間を作ってこられたか・・について書かれていました。

明石さんの言葉を借りれば

外に向かっては『地域を耕し』家庭では『思いを育てる』ことが必要なのですね。『思い』を育て、自分の意思でやりたいことが『できる』ことが大切ですね。本人が笑顔で幸せにならなくては意味をなしません。」

 地域を耕すことの意味や実践について書かれたのが前著だとすれば、本著はその後半。
できることを増やし幸せに自立していくための方法について、明石さんと徹之さんが取り組んできたことについて具体的に書かれています。

 ことば・トイレ・偏食・こだわり・お手伝い・お金 などなど・・自閉症児を育てている親にとっては、頭を悩ましてきたテーマばかりですね。
普通児のきょうだい達も一度はぶつかり、乗り越えてきた壁だとは思うのですが、印象に残っていることが少ないことから考えると、彼らは自分なりにまわりを見ながら“自然に”身につけてきたことが多いのでしょう。
一方、自閉症児にとっては、「教えられていないことは身についていかない」みなさん実感していらっしゃることでしょう。

 しかも教え方が、これまた結構むずかしいですね。なにしろ耳でいくら聞いてもなかなか理解できなくて、模倣も苦手で、何のためにしなければならないのかということも分かってくれない子ども達です。
教えていくには、自閉症の特性をよく理解したうえでのテクニックが必要となってきます。

 本書は、まさにそのことで途方にくれがちなお母さん達のためにマニュアルとして参考になる本です。
もちろん、自閉症児は一人ひとり違いますから、我が子に合わせて働きかけは少しずつ変えていかなければなりませんが、課題をスモールステップに分解し、それぞれのステップで問題になっていることは何かをつかんでクリアしていくというやり方は共通して使えると思います。

ただし、明石さんもおっしゃっていますが、そのステップをクリアしていくということは簡単ではありません。
あきらめないで、できることから少しずつ・・徹之さんでも、風呂掃除が完璧にできるまでには10年の月日がかかったそうです。

「それでも、スキルを獲得したら、教えた年月の何倍もの時間、私はそれらの家事をしなくてよくなったのですから、親としては若くて元気な時に苦労しておけば、あとで楽になるというわけですね。」

 もう一つ強く印象に残った文がありました。

「徹之を、地域の中であたりまえに育てながら、一つ一つ彼に合った方法を工夫して、自立への手立てを探っていってみよう。はじめは10しかない能力でも、一つ一つ自立のスキルを習得していくことで、成人になるまでに50くらいの能力になれたらいいなと思いました。
 本当は「ありのままでいい」のですから「10のままでいいんだよ」と言いたいのですが、今の日本の社会を見た時には、そう簡単には言えません。
     ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
見えにくく、わかりにくい、誤解されやすい自閉症の人たちにはまだまだバリアの多いこの現実を見た時、残念ながら「10のまま」で地域の中で生きようとするのは、さまざまな問題を引き起こし、本人も家族も多大な労苦を強いられることになります。そして、子どもが大きくなると家族といっしょに暮らすことが難しくなり、親たちは日々の暮らしの安定を求め、また親亡きあとの不安感から、「入所施設のほうが安心」と思ってしまうのです。」

 そうですね。例えばTEACCHプログラムが行政や地域にしっかり浸透しているノースカロライナでしたら、10の能力の人は10のままで、50の人は50のままで、支援を受けながら社会の中で安定して暮していけます。

でも今の日本では、自閉症者が地域で就労して暮そうと思えば、自らも自己をコントロールする力を身につけ、社会に適応していかなければなりませんね。

明石さんのおっしゃっていることは、育てる会の目標の一つ「自閉症という障害は持っていても一人前(いちにんまえ)の大人に!」と同じことだと思います。

その意味で川崎市の公務員として就労されている徹之さんは、一人前以上になられた私達の大きな目標です。

最後に明石さんのことば

「ただ向かう方向は決して譲りませんでした。それは、『地域の中で、幸せな人生を送る』ことです。」

かみしめたいと思います。
全ては子ども達の幸せのために・・目標をしっかりと見定めて、そこへと続く道を海図に描いてみんなで船出していきましょう。

「育てる会会報 59号」 より 2003.3)


  目 次

はじめに

  T どう育てたらいいのか

1章 「治す」から「ありのまま」へ

自閉症を治して普通児にしたい
自閉症は「脳の中の障害」

2章 「自立への思いと力」を育てたい

「自立のスキル」を教えたい
「社会のルール」を教えたい
「人との関わり方」を教えたい

3章 兄弟の力を借りて育てる

失った自信を回復させてくれた
兄も、弟も、愛情を込めて

  U どうやって育てるか

4章 「本当のことば」を、どうやって育てるか

なぜ、話してくれないの?
ことばが出てくるまでには
欲しいものを、ことばで言う
「二者選択」で答えさせる
体験したことを、ことばにする

5章 生活に必要なことを、どうやってしつけるか

トイレでオシッコができるまで
自分できれいにできるように
人前で絶対おちんちんを出さない
偏食を、どうやって直すか

6章 「「超多動」を追いかけて、地域の中へ

もうどこに行ったか、わからない
彼の世界に一緒に入り込んでみたら
街の地図を書いて
地域の方の協力で「挨拶」を身に付ける
ハラハラドキドキの「一人外出」

7章 「こだわり」を利用して、お手伝いへ

とにかく水が大好き!
「水大好き」を利用して、お手伝いへ
「ものとお金の交換」を練習する。
「お金は働いて得るもの」を教える


「お薦めの一冊」目次へ