『 過越しの祭 』
米谷 ふみ子:著 新潮社 定価:950円
ISBN4−10−359701−1 C0093 ¥950E
1986年の第94回 芥川賞受賞作 「 過越しの祭 」と、1985年第60回文学界新人賞 「 遠来の客 」の連作集です。(「過越しの祭」は第17回新潮新人賞も受賞しています。)
・・・と、いっても、実は息子が自閉症と診断されるまでは知らなかった小説集です。作者についても恥ずかしながら (^_^;) 知りませんでした。
米谷 ふみ子さんの名前を知ったのは、「我が子 ノア」をはじめ、ノア三部作での、自閉症児ノアくんのお母さん、そしてこの作品の訳者(著者はご主人の作家、ジョシュ・グリーンフェルド氏)としてでした。その後で、本書、芥川賞受賞作を読ませていただきました。本書は小説のジャンルでいいますと、日本で昔から書かれている“私小説”の部類にはいると思います。
小説の中でも旦那は小説家のアルですし、子どもは自閉症児ケンとその兄ジョン、主人公は日本から絵の勉強にきてアルと知り合い結婚した日本女性道子です。名前の部分を除けばノア三部作の米谷さん家族と同じですし、繰り広げられる家族の葛藤もどこまでが小説で、どこまでがノンフィクションの世界なのか・・・それほどいきいきとした描写が続きます。自閉症児を持つ親として、よりお薦めしたいのは「遠来の客」の方です。芸術的完成度は別として・・その意味では芥川賞を受賞した「過越しの祭」の方が上かもしれませんが・・やっぱり、自閉症児ケンが登場する物語の方がいいですね。
パニックや他傷行為が続いて、耐えきれなくなって・・本人と家族のためにと施設を選択して、ケンを預けた三週間。
その間、家族は欲していたはずの平安と、・・日々の暮らしの中での喪失感を味わいます。ケンが占めていた家族としての場所、それは大きく埋めることの難しい存在だったのをみんなが感じることとなります。そして、三週間後、家族との面会と帰宅を許された彼を待ちうけるのは・・・という物語です。
深刻なテーマですが、救いとなるのは、筆者の大阪弁。英語も大阪弁のイントネーション(?)で語られると、なんとなく肩が張らなくてホッとしたマができますね。
「過越しの祭」の方はケンをロスアンゼルスに残して、夫婦とジョンの3人で訪れたニューヨークでの話です。ユダヤ文化の中に異邦人としてはまりこんだ作者の思い・・でも読者としては、やっぱり残されたケンくんの方が気になります (^_^;)
・・・なお、この小説集は、新潮文庫や岩波現代文庫からも出版されているそうです。
(2002.11)
目次
遠来の客
過越しの祭
あとがき