『 自閉症のTEACCH実践 』
佐々木 正美:編 岩崎学術出版社 定価:3600円 + 税
ISBN4-7533-0200-8 C3011 ¥3600E
今や、自閉症児たちにとってTEACCHの有効性は、自閉症に関わるものにとって誰も否定できないぐらいの、周知の事実と認められるようになってきたように思います。
全国各地でそのTEACCHの実践は、野火が広がるように施設や学校、家庭で取り組まれるようになってきました。もちろん、“TEACCHプログラム”という観点から見た場合には、この本の第1章で内山登紀夫先生が述べられているように行政や学校・職場、家庭との連携のもとに実行される包括的プログラムであって、日本で行なわれている多くの実践は “TEACCH メソッド(TEACCH的技法)”ということになるのでしょうね。TEACCHのすごいところ、特徴的なところは、このTEACCHメソッドの、それも「さわり」の部分だけでも、自閉症児にとっては顕著な効果があらわれることではないでしょうか。
いみじくも、この本の第11章「家庭でのTEACCHの実践」は、(育てる会のお母さん方の中にも参加された方がいらっしゃると思いますが) 毎月川ア医療福祉大学で行なわれている「佐々木セミナー」に参加されているお母さん方が、その講義を聴いて家庭で実践して効果のあった・・というアンケートのまとめが中心です。
それまで、TEACCHを全く知らなかったというお母さんでも講義を聴いただけで、見よう見真似で効果をあげられる・・我が家も10年近く前、小学校入学当時に実行してみて実感した効果です。
しかし、その表面的な技法だけに満足して、安易に“道具”としてだけ使っていると、思わぬ落とし穴もあるようにも思います。確かに視覚優位な我が子たち、構造化やスケジュールに慣れてくると、パニックも少なくなり安定して暮らせるようになれます。その一方で、出されたカードの指示には“思わず”従ってしまう傾向がありますね。素直といえば、素直で(だからこそTEACCHのさわりだけでも、充分効果が発揮できるのですが)可愛いのですが、もしそれが意に沿わぬ指示ばかりだったとしたら・・やがて臨界点に達した素直さは、破綻してしまうのではないでしょうか。
思春期近くなって突然崩れてしまう自閉症児たちの中には、こんな風に便利づかいにされてしまった「TEACCHもどき」への反動があるのかも知れません。TEACCHのめざすのは子どもたちが暮らしやすいようにコミュニケーションの手段を持てるようにすること・・・カードは早く本来の持ち主である子ども達に返して、指示して動かすのではなく、本人の意思を聞いてあげる手段としてやりたいですね。この本には、他にも京都市児童福祉センターや、横浜各地の地域療育センター、やまびこの里、大阪自閉症支援センターなど全国各地からの、ホントのTEACCHの実践が紹介されています。図や写真も豊富で、療育現場や家庭で使えそうなヒントもみつかると思います。
第1章で内山先生がわかりやすく説明しているTEACCHの9つの基本理念、改めて読み直して、実践の際の座右の銘としておきたいですね。
- 自閉症の特性を理論よりも、実際の子どもの観察から理解する。
- 親と専門家の協力。
- 子どもに新たなスキルを教えることと、子どもの弱点を補うように環境を変えることで、子どもの適応能力を向上させる。
- 個別の教育プログラムを作成するために正確に評価する。
- 構造化された教育を行う。
- 認知理論と行動理論を評価する。
- 現在のスキルを強調するとともに、弱点を認める。
- ジェネラリストとしての専門家。
- 生涯にわたるコミュニティに基盤をおいた援助。
(「 育てる会 会報 51号」 2002.7)
目次
序 TEACCHとの20年 佐々木 正美
第1章 TEACCHの考え方 内山 登紀夫
第2章 診断・相談 村松 陽子
― 指導精神科外来での診断・相談第3章 幼児通所プログラム(1) 安倍 陽子
― 家族と協働して、ネットワークを築き、生活支援を目指す第4章 幼児通所プログラム(2) 藤岡 紀子
― ひよこ園の取り組みの歴史第5章 学校教育プログラム 浅井 郁子
― 特殊学級での取り組みをとおして第6章 成人入所施設においてTEACCHのアイデアをいかす 藤村 出
― 横浜やまびこの里の地域生活支援システム VISUAL第7章 自閉症の人たちが暮らすグループホーム 中村 公昭
第8章 福岡教育大学附属障害児治療教育センターにおける実践 納富 恵子
― サービスモデルの開発と自閉症児と家族の変化を中心に第9章 家庭と地域(1) 新澤 伸子
― NPO法人大阪自閉症支援センターの歩みを振り返って第10章 家庭と地域(2) 幸田 栄
― クリニックから第11章 家庭でのTEACCHの実践 岡野 早苗
第12章 日本における普及・研修 藤岡 宏
― TEACCHプログラム研究会の歩み