最近の出来事
O
汗ばむほどの日のことでした。
妹(小1健常児)が夕方4時ごろ「歯が痛い。」と言い出しました。
6時半まで仕事を控えていた私は、「6時半まで、待って。」と言うと、妹は、「痛いから待てない。お兄ちゃんと行く。」と言い出しました。
私は、ついお兄ちゃんと・・・?
歩いて7分ほどの歯医者さんですがそこへ行くまでに車がよく走る信号のない横断歩道が一ヶ所あります。
一瞬兄がしなければいけない事が頭に浮かびました。
この1〜7のことが一人の判断でできるだろうか。
小さい頃から、よく病院ヘ通い少しずつ自分で支払までできるようにしてきたつもりです。おそらく、病院の中でのことはできるだろう、最近登校時の班長をしているので車に気をつけて歩くこともできるだろう、妹と、一緒に行くことは
Tにとってよい勉強だ、と思いGOサインを出しました。
兄も、先日「歯がしみる。」と言っていたので一緒にみて頂くことにしました。
でも、心配なので歯医者さんには電話をしておきました。
兄が、学校から帰って来たので妹のことを頼みました。
「行ったら、あいさつして、保険証と診察券を出してね。」
「終わったらお金を出してね。」
「車に気をつけてHARUKA(妹)と手をつないで行くのよ。」
と、とても不親切な説明しか出来ませんでした。
でも今までの積み重ねを信じるしかありません。
6時過ぎに帰ってきました。
HARUKAがいません。私は、「HARUKAは?」ときつい声で尋ねると平然とした顔で「後。」と、返事が返ってきました。
確かにすぐ後から歩いてきました。
いい顔をしています。
Tの差し出した袋には歯医者さんからの手紙が入っていました。
その手紙には、治療の内容と様子が書かれていました。
「お二人とも、しっかりされていますね。お兄ちゃんは、きちんとあいさつしてくださって呼ばれたら、「中に、入ったら良いんですね?」と、確認してお兄ちゃんぶりを発揮していました。そしたら、HARUKAちゃんが「お兄ちゃん、病院なんだから呼ばれるのはあたりまえでしょ。」と、一言、妹さんもしっかりされていますね。」
二人の様子がとてもよく分かるお手紙を頂きました。T は、周りの人たちに支えられて大きくなっているんだなと改めて思いました。
その他の様子をHARUKAに聞きました。
HARUKA:「手をつないで、歯医者さんヘ行って私だけ椅子に座ったの。」
母 :「お兄ちゃんは、座らなかったの?」
HARUKA:「椅子がいっぱいだったからお兄ちゃんは座らないで立っていたの。」
「だって、私、今日は、お腹が痛くて学校休んだでしょう。だから、座らせてくれたの。」
本当に、Tがそこまで考えられるようになったのかな?
HARUKA:「でも、なかなか呼ばれないからおもちゃのコーナーで二人で遊びながら待ったよ。」
診察が、終わってからも名前を呼ばれるまで待ち、支払いが出来たそうです。
初めての保護者代理、兄らしく一生懸命がんばったんだろうなと思いました。
妹は、夕食を食べながら 「私、お兄ちゃんがいてよかった。」
と、一言。
Tは、妹から誉め言葉をもらって満足そうでした。
10年前はこんな子でした。
多動で、常に走っている
手をつないで歩かない。
質問に、答えられない あいさつできない 小2の頃までおうむ返し。
買い物なんて出来ない
車を危ないと思っていない。
歯医者さんでは椅子に座れない
治療の時は大騒ぎ 。
本当に何もできない子でした。
私もあの頃は、若かったのでしょう。
毎日のように、Tのパニックと戦っていました。今でも同じですが、パニックになりそうな時は、かわいそうだけど、今、この子に普通のことができるようにしておかないと大きくなって困るのはこの子だからと、思いがんばっています。
廻りの人たちは、「そこまでしなくても、いいのに。」
と、批難します。
きっと、周りから見ると鬼のように思えるのでしょう。小1の頃、車とぶつかり少しけがをしたことがありました。
その後父親が「お母さんと、車どっちが怖い?」と、尋ねると「お母さん。」と答えが返ってきたことは、忘れられません。
今は、小6。小さい頃とは違い、T 自身に考えることを教えています。
日常生活の中ではとても些細な事ですが、洗濯物を干す手伝いをしてもらう時にはどのように干すと乾きやすいか。
今日は、どんな服を着ようか、このズボンと合うシャツはどれかな、少し寒いからトレーナーを着よう
などです。
他には、集団登校の班長をしているので、どのくらいの速さで歩くと小さい子が歩きやすいか。車の安全確保。
11人で登校する時どうしても、2人だけ離れてしまう、その場合どうしたら良いか。「走ってきて。」と、言った時転んでしまった。
それからは、2人を数ヶ所で持つことにした。待つ場所も、車のじゃまにならない安全な所で待つ。
T以外は小4以下なので毎日付いて行っています。皆と安全に、学校へ、歩いていけるように班長の意識が出てくるとよいのですが。
一人前の、大人になるまでまだまだ勉強しなければいけないことが、たくさんあります。
でも、そんな時思います。勉強しなければいけないことがたくさんあるということはもっと、もっと今よりよくなる可能性がいっぱいあるんだなって。
「会報37号」(2001.5)