トトロと哲平

 “ 歩こう 歩こう 私は元気  歩くの大好き どんどん行こう

 今朝も大好きなトトロのテーマに合わせて、ご機嫌で学校に向かう哲平くんです。

 息子、哲平はこの春で小学校3年生になる、明るくて元気過ぎるぐらいの典型的(?)な自閉症児です。
今は岡山の片田舎で、両親(私達)と姉兄、おばあちゃんや温かい近所の人達に囲まれ楽しい生活を送っています。
ここは夜になると狸や狐、イノシシまで遊びに来るというような素敵な(?)、ほんとにトトロのふるさとみたいな所です。

 日本語がまだよく判らない哲平ですが、目下の趣味は宮崎駿監督のビデオを見る事。
「魔女の宅急便」「天空の城 ラピュタ」「風の谷のナウシカ」、中でもお気に入りは何と言っても 「となりのトトロ」。
人との会話はまだおぼつかないのですが、ビデオのセリフはすっかりマスターしたようです。 テレビと違って何時見ても同じセリフをしゃべってくれるビデオは、この子たちには安心できる楽しみなんでしょう。
 哲平も自閉症のご多分に漏れず、機械の操作はお手のもの、勝手に早送りや巻戻しをして、好きなシーンを出しては悦にいっています。
おかげでつきあって見ているうちに、私まですっかりトトロのファンになってしまいました。

 そういえば先日、家族で閑谷学校 (和気郡にある、池田藩の藩校の跡、とても閑静でいいところです。)に行った時のこと。
うす暗い講堂の廊下を歩いていた哲平が突然走りだしました。何事かは判らず、とりあえず私も後を追いかけてドタドタ。
走りながら何かキョロキョロ探している様子。そのうち立ち止ったかと思うと、やにわに雨戸をガラリと動かし、大きな声で、
「メイ、あったヨ!」
 そう、トトロをご覧になった方はご存知の、五月ちゃんと妹のメイちゃんが古い田舎家で二階への階段を探すシーン。
そういえば本当に同じ雰囲気の場所でした。観光客のヒンシュクをかいながらも、思わず抱き上げて笑ってしまいました。

 それにしても哲平の心の中にも楽しい世界が広がっているのが感じられ嬉しくなりました。そしてその世界を豊かにするため、普通の子と同じように、いえそれ以上にいろんな経験をさせてやることが大事だな、と、トトロと哲平に教えられた一日でした。
 わかっていないように見えても、哲平なりに少しずつ心に吸い込んでいてくれているようです。

歩こう 歩こう 私は元気  歩くの大好き どんどん行こう

 本当にどんどん行ってしまいそうな息子ですが、これからも親子ともどもよろしくお願いします。


 これを、書いたのは今から3年前、今の私がこんな話をきいたら、「んーん、お父さん、あまり感心しませんね。テープの同じ所だけ、繰り返し見ている? んーん、固執にならないうちに、早めに止めたほうがいいんでは・・」などとアドバイスしそうな話です。

 でも当時の気持ちは、やっとジグソーパズルを卒業して、普通の子と同じように、哲平も趣味といえるものを自分で見つけられた、という親としての喜びでいっぱいでした。
 そしてそれを単純に喜んでいる当時の自分、今から振り返っても “それはそれで良かったんじゃないか” と言ってやれると思います。

 女房の言い草ではありませんが、親は専門家にも評論家にもなる必要はないのでしょう。
たとえ、間違っていたとしても、親として子どもと一緒に喜びあって、子育てを楽しんでいけばいいのではないでしょうか。
ただ、悔いることなくその時に正しいと自分が思ったことを、精一杯やっていけば良いと思います。
もちろん、それが間違いとわかった時には、子どもの為にすみやかに訂正していきましょう・・・・それでいいと思います。 

 

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