sorry,Japanese only
『 僕の妻はエイリアン 』
「高機能自閉症」との不思議な結婚生活
泉 流星:著 新潮社 定価:1400円+税
ISBN4-10-300111-9 C0095 \1400E
『30代なかばにして受けた診断の結果、妻は、「アスペルガー症候群」という脳の持ち主だった ―。
自閉者の周囲との違和感や独特の異質さを「普通のサラリーマン」である夫の視点を通して描き出した稀有で軽妙なノンフィクション』
これが帯に書かれた本書のテーマです。
これまでに、自閉症者の自伝というものはかなり目にするようになりました。中でも女性の場合はグニラ・ガーランドさんやニキ・リンコさんのように、結婚されて、自閉圏と非自閉圏との文化の差にとまどいながらも、理解あるご主人と一緒に、幸せな人生を送られている方の話も聞けるようになってきました。でも、その生活を非自閉圏の夫の側から書かれた本はこれまで目にしなかったように思います。
その意味で、タイトルに引かれて、書店で手に取ったとたん、足はレジの方に向いていました。
しかし、ページを開いて読み進むうちに・・・なんとなく違和感を覚えるようになりました。
その第一は夫婦の間の会話の人称です。例えば・・・
「え〜、夫ってそんなに毎朝ガマンしてたの?」
「そうだよ。だって、妻は決まった生活パターンが乱れると、たいがいイライラしだすんだから」
この表現はちょっと不自然ですよね。お互いが相手を呼ぶとき「妻」「夫」と会話している夫婦を私は知りません。あるいは、これは本書を世に出すにあたってプライバシーに関する配慮から、普段は固有名詞で名前を呼び合っているのを、普通名詞に変えただけかもしれません。
でも、その場合の表現は普通の感覚では「あなた」「お前」とか、せいぜい「君」ぐらいにになるのではないでしょうか。もちろん、お互いの関係が「妻」や「夫」であるのは間違いないのですか、それを「妻」「夫」と書いて当然としていること自体、むしろこの作者の「夫」の方が感覚的に自閉圏にいるような気がしてしまいました。
そういえば思い出しました。以前会報69号でも紹介した、筆者の前作「地球生まれの異星人」では、筆者はアスペルガー症候群のご本人で、結婚されている奥さんだったはず・・・
こう書いてしまうとネタバレになってしまいますが、本を読む時に先にあとがきから読む人もいることですし、ご本人も前作とペンネームを変えていないことから、ネタバレOKだと思って書いてしまいました。
でも、その観点から改めて読み進めてみますと、本書は別の意味でとても興味深い一冊となります。
「心の理論」を持ち出すまでもなく、自閉症スペクトラムの人は相手がどう考えているか、という想像力に弱い部分があります。それが社会性の障害の要因となっているのでしょう。
そんな自閉症スペクトラムの方が、最も身近な相手とはいえ、「夫」の視点で、夫に自分がどう見えているのか、そしてそれに対して夫がどう考えて行動を起こしているのか。それを一冊の本に書くことが、どれほど大変なことかはおわかりいただけると思います。そんな大変な苦労の末の一冊です。
でも、それだけの苦労は報われた本書だと思います。相手の夫の視点を鏡として表現する本書の形は、自閉症スペクトラムの方の日常の苦労の多さが、ワンクッション置くことで深刻にならずに伝わってきます。
それにしても、ここまで冷静に自分のことを分析できる筆者の論理的な考え方はサスガという感じです。このような論理を積み重ねる形で、これまで筆者は人生を送ってこられたのでしょう。私たち非自閉症圏の人たちが自然に、あるいは暗黙のうちに身につけてきた「常識」や「社会性」について、そのほとんどを「この場合はこうするのが常識のようだ」「こういう発言は比喩として使われることが多いので、文字通りの意味でとらえるべきではないと思う」などと一つ一つ「学習」してこなければならなかったのだと思います。
本書の中でも、夫婦の会話として、あるときは軽妙に、あるときはケンカの原因としてちょっぴり切実に、その大変さが著されています。
そしてもう一つ、本書の大事なテーマは「障害の適切な告知」「正しい理解大切さ」にあると思います。
それにより随分救われた思いがアチコチにでてきます。もしかすると障害の告知がなければ、お互いの性格の不一致と誤解されて結婚生活は破綻していたかも知れません。ところが違っていたのは“性格”ではなく、“星域”だったのです。それがわかって、お互い愛し合い尊敬しあっていれば互いの文化を尊重しあって暮らしていけるようになります。
そして問題がわかっていれば、必要な時に支援やアドバイスをしてくれる異星人(エイリアン)サポートチームを組むこともできます。
これからも、ご夫婦が多少の文化摩擦はあるにしろ、お互いの絆が更に強まっていかれることを願って本書をお薦めします。
なにしろエイリアンと結婚できるって、めったに体験できない人生ですよね。
(「会報 91号」 2005.11)
その後、作者の泉 流星さんから、メールをいただきました。
ホントにご家庭では 「夫」「妻」と呼び合っておられるそうです (^.^)
けらえいこの自伝的漫画「セキララ結婚生活」のシリーズに登場する夫婦に、かなり我が家と共通するものがあり、その本で「オット」「妻」とお互い呼び合ってるのをマネをして遊んでいるうちに、そのまま定着して現在に至っています。
失礼しました。またまた私のいつもの早トチリでした (^_^;) (2006.2)
泉 流星さん Webサイト「Alien Mind 」 http://members.ld.infoseek.co.jp/alien_mind/
「僕の妻はエイリアン オフィシャルブログ」 http://ameblo.jp/bokutuma-official/
目次
夫まえがき
第1章 妻との日常 − 生活していて、ちょっと風変わりなこと
1 妻は毎朝ニュースを見る
2 今日は何する?
3 電話でギョッ
4 ゾンビじゃないんだからさ!
5 「ただいま」のスリル
6 我が家は主婦不在
7 妻が妻になった理由
* 僕らの結婚から、診断までのこと
第2章 妻からみた世界 − 普通とはかなり違う、妻の五感
8 視力と眼力
9 妻って地獄耳
10 敏感なんだか、鈍感なんだか
11 我が家の料理人
12 妻と僕、超能力者はどっち?
* 妻はショーガイシャ?
第3章 異星人妻は、努力して人間のフリにはげむ − 世の中に適応するために
13 異星人(エイリアン)サポートチーム
14 情報のチカラ
15 異星人妻の驚き人脈
16 異星人とケンカ
17 仲直りにも決まりがある
18 妻と旅する
* 僕らのこれから
著者あとがき
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