sorry,Japanese only

『 自閉っ子、深読みしなけりゃ うまくいく 』
ニキ・リンコ + 仲本 博子:著 花風社 定価:1500円+税
ISBN4-907725-67-1 C0036 \1500E

「自閉っ子、こういう風にできてます!」 「俺ルール! 自閉は急に止まれない」に続く、ニキ・リンコさんの「自閉っ子シリーズ」(?)の三作目です。
前2作に比べると、破天荒さが薄れ、ちょっとまじめすぎるような印象です。あるいは私たちが自閉の世界、ニキさんワールドに少し慣れてきたせいかもしれませんね。
内容は、アメリカで自閉症児トニー君を育てるトニママ(仲本博子さん)さんが、アメリカでの事情を説明しながら、それを受けて、ニキさんと、花風社社長の浅見淳子さんの二人が日本の事情と比較などしながら対談していくという構成です。
それまでのアメリカ療育事情の紹介のされ方は、私には若干、隔靴掻痒(ものたりないな)の観がありました。
たぶん親御さんなど、実際に身内に障害児を持った方からの報告は、「手厚い支援にありがたがるのに忙しい」のだと思います。そのせいで、日本で制度を充実させるのに必要な次の二つの情報を決定的に欠いているような気がしていました。
 ・ 支援が充実しているのはわかった。でもどうして? お金はどこから来るの?
   アメリカのどこにそんなお金があるの? 双子の赤字はどうしたの?
   第一「小さな政府」でしょ? その国でどうして官の仕事の最たるものである福祉が充実できるっていうの?
 ・ 専門家が多いのはわかった。でもどうして?
   報酬はどうなっているの? 資格は? 数ある職業の中で、どうして発達障害児のセラピストを選ぶの?
(浅見 淳子)
こんな疑問を解決したいと、アメリカから一時帰国していたトニママさんにお話を聞いた浅見淳子さんが、改めて渡米することになったわけです。
一方で、表題の「自閉っ子、深読みしなけりゃうまくいく」は、ニキさんワールドの、“とんちんかんな「心の闇」”のマンガや「実は大変 “浅い” ワケがある自閉っ子の振る舞い」なんかは前作に引き続いての楽しい対談です。
ニキ 「たとえば講演に行った先で受けるご質問の中に「幼いころ、どういう言葉をかけられた時嬉しかったですか?」なんていうのがあります。」
浅見 『親御さんとしては聞いてみたいでしょうね。私は療育の先生の講演に行ったとき、「自閉スペクトラムのお子さんはほめて育てましょう」なんて言ってたのを聞いて「そうかあ」と思いました。』
「そうそう。たぶん質問なさった方の意図も、そういうところにあったんじゃないかと思います。」
『「りんこちゃん いい子ね」「かわいいわね」って言われたときにいちばん嬉しかったです、とかそういう答えを予測していたかもしれませんね。』
「でも、それに対して私がした答えが 「しまうま」。」
『しまうま!?』
「「しまうま」っていう言葉の響きが好きで、それを言われたときがいちばん嬉しかったんです。だからなんとか「しまうま」って言わせようと、親に「動物園にいて白と黒のものは何?」とかなぞなぞしかけたりして。で、親も私が「しまうま」を期待しているのを知っていて、ワザとはずしたりして。」
『あはははは。』
「ねえ、明らかにズレてるでしょう。喜ぶツボが、いわゆる「ふつうの子」と。そういう段階で、「気づけよ、オヤ」とか思うんですけど。」
『たしかに、ズレてますねえ。』
自閉症スペクトラムの診断とか気づきについて語られている、いつものニキさんと浅見さんのかけあいです。
むしろ、このままの対談が続いていれば、楽しくタメになる(私ごのみの (^_^;))一冊にもなったと思うのですが、そこからまたトニママさんのアメリカでの体験談に話が移っていきます。
ですから、本書の印象は、内容的に少しいろんなものを詰め込みすぎて、ちょっと焦点がボけてきてしまったのでは、というちょっと残念な印象でした。
ニキさんとトニママさんが、実際に直接会って・・・波長が合って・・・のお話なら、もう少し変わった一冊になったと思います。浅見さんではないですが 「若干、隔靴掻痒(ものたりないな)」、と言うか、若干、もったいないなと思ってしまったせっかくの一冊です。
先ほどの、アメリカと日本の問題の捉え方、その答えの大切さなどは、それだけで1冊に値すると思います。
次回はこのあたりに焦点を絞っての、「著者」浅見淳子さんとしての自閉症を取り巻く諸事情への考察の本の出版を期待しています。
(2006.4)

  目次

★マンガ★ 新橋烏森の変
ニキ・リンコさん、特別支援教育に何を望みますか?
トニママとの出会い
あんまり行きたくないアメリカに行くワケ
親デバイト
食べ物と遺伝子
色々な人がいる
実は日本ってけっこういい
★マンガ★ アメリカンフード
《 トニママ、語る パート1 》
早く診断受けてよかった
トニー誕生
公園デビュー
人に興味がない我が子
心配しすぎでもいい
診断がつかない!
アメリカの友人には診断がついた
検査を待つ間
診断はスタート
スタンフォードでの診断
親が診断を受け入れやす環境
診断されるのはトクなんだ!
実は大変浅いワケがある自閉っ子の振る舞い
診断を受け入れやすい風土の条件
遺伝で何が悪い
意外と安上がりでは? アメリカの療育
自閉を科学的にとらえる
足りないのは知識
日本の方が個性重視?
気にしすぎ、は続いているのか
ニキによる定型発達研究
無用な深読み、「心の闇」系解釈
★マンガ★ 車で覚える
《 トニママ、語る パート2 》
診断を受け入れやすいワケ
診断を手に交渉が始まる
違うのがあたりまえの社会
IEPとは?
親の義務、学校の義務
★マンガ★ 留守番
診断後、すぐに手を打てるのがいい
早期介入がいちばん大切
親の負担が多い日本、学校の負担が多いアメリカ
天才児も支援の対象
「税金返せ!」
格差社会とIEP
★マンガ★ とんちんかんな「心の闇」
《 トニママ、語る パート3 》
IEPの現場から
サイコロジストに案をもらう
作業療法
ゴールを設定する
自閉っ子の未来計画
自閉は治る?
四種類の診断書
IEPはしんどい?
身体の問題がわかっている
自閉っ子療育民営化の現場
道徳論のせい? 高くついている日本の療育
情報が一貫して共有されるのはいい
アメリカなりの縦割り行政
親の横暴はまかり通っていいのか?
子どもの未来へのかかわり
官は全然関与しなくていいのか
ちょっとティーブレーク
《 トニママ、語る パート4 》
ゴールに向かって
自閉症クラスへ
いいとこどりから始めてもらいたい
駅前留学はどうしてOKなの?
IQいくつ?
IQより体力?
普通学級万歳はどうなのか?
《 トニママ、語る パート5 》
普通クラスへ
「あれができるから、これができるだろう」はまちがい
バイトができなくなったワケ
学力と生活力を切り離して考える
特別支援学級の一日
エイドの役割
ずるいって言われない
放課後の問題
《 トニママ、語る パート6 》
親としてのチャレンジ
現在のトニー
ニキさんの希望
子育てしてから教師になる
日本にとりいれたいもの
生きているだけでめっけもの
★マンガ★ IEPとは?

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