sorry,Japanese only

『 自閉っ子は必ず成長する 』
服巻 智子:著 浅見 淳子:対談参加者 花風社 定価:1800円+税
ISBN978-4-907725-73-0 C0036 \1800E

前著「自閉っ子、自立への道を探る」で、高機能自閉症やアスペルガー症候群の成人の方へのインタビューや解説を行われた、それいゆ相談センターの服巻智子先生による続編です。
今回も前回と同じく服巻先生が花風社の浅見淳子さんと一緒に、3人の方にインタビューを行い、その後お二人で話しあわれています。
今回は、一家の大黒柱として家庭を守っているシステムエンジニアの安和盛雄さん、中学を卒業してから大手メーカーに27年も勤め続けられている、主婦でもある雲下雨音さん、それに残念ながら挫折したとはいえ障害者乗馬を起業され運営されていた雨野カエラさんの3名です。
今回も、みなさんへのインタビューの中でそれぞれ教えられるところ、考えさせられるお話しは多かったのですが、私にとって興味深かったのは、むしろそのインタビューを踏まえて行われた服巻先生と浅見さんの会話だったように思います。
その中から、特に印象に残ったお話を2つほど紹介させていただきたいと思います。
まずは、「片付けられない=ADHD」ではないというお話し。日本では「片づけられない女」などの著書が広く知られたため、実行機能の障害があるのは、ADHDだという思い込みが広がっているように思います。
浅見:トモコ先生とこうやってさまざまな自閉症スペクトラムの方にお会いしていると、アスペルガーの人たちも片づけられないんだってわかってきたんですが。でも、世間にそれほど知られていないと思います。
服巻:え、そうなんですか? いや、そんなことないでしょう。私が付き合うのが英語圏の当事者たちや研究者たちが多いから、自分にとってこれが当たり前になっているだけなのかな? ADHDも実行機能障害を抱えていますが、アスペルガーの人たちに実行機能の障害があるというのは、このギョーカイでは広く認知されている事実です。実行機能の障害がある人の多くはADHDというより自閉脳であることが多いと思いますね。成人当事者をたくさん診ているある医師も「ADHDと紹介されてきた成人当事者で、純粋にADHDだった人はいなくて、ほとんどがアスペルガー症候群と再診断しました」と証言されているくらいです。
浅見:そうなんですか? まあ考えてみれば、TEACCHプログラムとかってまさに、実行機能の障害を補う意図が込められていますよね。
その視点から、アスペルガー症候群の人たちへの支援方法も改めて見直してみることも必要なのでしょうね。特に浅見さんの言う通り、手順書やスケジュールの提示、構造化・ルーティン化などは、実行機能障害に対して有効だと思います。
もう一つ改めて考えさせられたのは、よく成年支援の中で行われている、成人当事者の集まりは本当に必要なのか、というテーマでした。
服巻:成人当事者同士で自助グループを作るというのは、支援する側の定型脳の発想からは一見よいものに見えるかもしれませんが、その実、運営はかなり難しいばかりか、よほどASDの多様な特性と人間関係の発展の仕方に精通した定型脳のファシリテーターのような役割の人が関与して人間関係や思考の交通整理を常時していないと、とんでもないことになることがあるのです。もともと自力では集団の言動は得意ではない人たちですから。
浅見:たしかに。でも一方で、「成人同士の集まりがほしい」という声も当事者から聞かれますよね。けれどまたその一方で「そんなものいらない」ときっぱりと言う当事者もいます。
服巻:当事者だけではなく、よく「成人の集まる場をつくろう」とかいう企画を自治体や各地の発達障害支援センターから聞くことがありますが、その目的は自閉脳が求めるものとは異なっているし、どう運営してどう目的を達成するつもりなのか、苦手な集まりを計画しておいて、まったく具体的な方略を持っていないことがあるのに驚きます。そもそも、自閉脳を持った成人の人たちからの希望というより、たいていの場合「行き場を作って欲しい」という保護者や家族の希望だったり、あるいはなす術を持たない支援者の苦し紛れの発想だったりしているケースもあるようで心配です。
そうですね。安易に良かれと思っての取り組みことへの危険性も承知しておかなければなりませんね。服巻先生のような、上手に当事者の間の交通整理を行い、いい方向に場を誘導していくだけの力量を持った人が必要なのでしょう。かえって参加している人の状態を悪化させることのないよう、気を配っていかなければいけないのでしょうね。
忘れないで今後の参考にしたいようなお話でした。
他にも紹介したいお話がたくさん詰まった本ですので、ぜひお薦めしたいと思います。
(「育てる会会報 126号」 2008.10)

  目次

最初に
  当事者から学ぶのは、とても大切なこと

  一家の大黒柱として家族を支える
     安和 盛雄 さん(システム・エンジニア、精神保健福祉士)

仕事のやり方を改善したきっかけ
セルフ・エスティームが下がらなかった理由
悩んできたから、メンタルヘルス関係の仕事は向いている?
なぜ上司が助けてくれるようになったか
立場をわきまえる
会社って利益を出さないといけないんだ
結婚について
家庭に対する責任
本から学ぶ
高すぎる自己評価が困るとき
体調の管理
ヒマでネットにはまる
組織は合わない?
一家の大黒柱として
自助グループの限界
メンタルヘルスの保ち方
依存症について
お金の貸し借りはしない
イジメがどう見えていたか
自閉症の人に対するイジメの特徴
「片づけられない=ADHD」ではない?
行動を始められない
就労のバリアとなるのはむしろ実行機能障害
なぜ宿題ができないか
高学歴の罠
安和さんにお会いして
  感動的な成長
企業の仕組み
学歴に依存しない
今の仕事と夢の仕事
自分が努力する
◆トモコ先生から一言アドバイス◆
   安和 盛雄 さん

  とにかく、働き続ける
     雲下 雨音 さん(大手メーカー社員)

職場でのカミングアウト
大企業と中小企業の違い
口の利き方
許せないことが多くて
死んだほうがましかも、と思っていたけれど
言葉が達者だと起きるトラブル
なぜ会社を辞めないのか
同い年の子とうまくいかない
シンプルな生き方
反抗的じゃない、理屈が通ればわかる
診断について
アスペルガー同士の関係は難しい
感情を処理する方法
老後は?
子どもたちへのメッセージ
社会性って?
努力する姿を見せる
職場でどういうサポートを得ているか
雲下さんにお会いして
  課題は変化への対応
企業の言い分を聞く
成人当事者の集まりは必要か?
限界は広がるのか
「かわいそう」だけでは始まらない
理解は強制できない。共感によって生まれる
就労の条件
◆トモコ先生からの一言アドバイス◆
   雲下 雨音 さん

  北の大地で、大事なものたちと出会う
     雨野 カエラ さん

一生懸命やっているのに、なぜうまくいかない?
診断について
子どもの頃のこと
仕事につくまでのこと
馬との出会い
仕事は好きでも人間関係がうまくいかない
障害者乗馬を始める
自分で開業する
支援者登場
好きなことで食べていける?
職場実習がダメだった理由
食べるために馬以外の仕事をできるか?
パートナー登場
雨野さんにお会いして
  仕事の意味をつかめるか?
社会性の障害とは?
支援者に必要なのは何?
不登校
好きな仕事伝説
起業に必要なものは?
自閉っ子の感じる不安について
いい兆候
◆トモコ先生からの一言アドバイス◆
   雨野 カエラ さん
自己認知支援って?
  本当に効果のある自閉っ子支援を考えよう
「ありのまま」でいいのか?
自己認知支援に大切なもの
エネルギーが必要
障害告知の現場
自分を受け入れてほしい

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