sorry,Japanese only

 『 自閉っ子、自立への道を探る 』

服巻 智子:著 花風社 定価:1600円+税
ISBN4-907725-68-X C0036 \1600E

花風社の「自閉っ子」シリーズ(?)の最新作です。前作「自閉っ子、こういう風にできてます!」や「自閉っ子、深読みしなけりゃうまくいく」などでも対談の進行役を務められた花風社の浅見淳子さんが、本書でも会話の引き出し役として参加されているので、雰囲気は「シリーズ」という感じです。
本書では、これまでの対談、たとえばニキリンコさんと藤家寛子さん、というような本人同士の対談とは少し違って、NPO法人それいゆで相談センター長として自閉症児・者の支援にあたられている服巻智子先生が、高機能自閉症・アスペルガー症候群のご本人と対談しながら、これまでの生きてこられた軌跡を、専門家の立場から解説したりアドバイスしながら、そのおかれてきた状況を読者の方にもわかってもらおうというような形をとっています。
まず、第1章の対談相手は、前作にも登場された「他の誰かになりたかった」「あの扉のむこうへ」などの作者の藤家寛子さんです。藤家さんはまだ学生で、前回の対談では普通の人とは考え方、感じ方、などが普通(非自閉圏)の人とは大きく違っているにも関わらず、なんとかこちらの世界に適応して、執筆活動などおくられている・・・・と思っていましたが、やはりそんな生易しいものではなかったようですね。とても、この世界で苦労しながら、なんとかここまで這ってきたというようなエピソードがいっぱいです。
東京での一人ぐらしを始めたのですが、
「何食べていいかわからないので食べるのをやめていました。・・・白湯だけ飲むようになって、食べるのを放棄するようになりました。砂漠で遭難しているみたいになって・・・。水分だけで命をつないでいたんです。」
本当に大変さが身にしみてくるようなお話が続きます。それでも、読んでいて明るさを感じるのは藤家さんの個性でしょうか。
また、第3章では育てる会で講演をお願いしたこともある「MYフェアリー・ハート」の作者の成澤達哉さんとの対談です。
成澤さんが岡山から引越しされて、バイク便の仕事に就かれたと聞いたときは、よく考えられて仕事を選択されたと感心したのですが、
「今は人間関係で悩むことはないです」
とバイク便ライダーとして働かれています。それでも「自閉症は忘れることができない障害」と言われるように、成澤さんは今も過去の辛かった頃のことが忘れられずに苦しんでおられます。
それに対しては服巻先生からも
「(過去のことは)清算できるなら清算して、清算できないなら、少なくとも思い出さないで済むように、あらゆる環境と条件を整える方が賢い生き方だと思えます。」
とのアドバイスもありました。成澤さんに限らず、フラッシュバックなどで過去にとらわれて苦しまれている高機能な方は多いと聞きます。同じようなケース・内容で成功体験を積むことによって、楽しい記憶と塗り替えることができるように願っています。
このように、第1章も第3章も、本人ならではの貴重な体験談が豊富な本書ですが、私が一番印象に残ったのは、初めてお名前もお聞きした第2章の風花さきさんとの対談でした。
風花さんは、自閉症スペクトラム(もちろん高機能)でありながら小学校の先生としてフルタイムで働かれています。小学校では、とくに低学年の教室をイメージしていただくとお分かりのように、いろんな刺激があらゆる方向から縦横に飛び交い、感覚過敏のある自閉症の人にとっては耐え難い環境であるといえましょう。「光とともに・・・」で光くんが耳を押さえて動けなくなってしまう状態です。一方では、大人の教師同士の間でも、人間関係の「和」が求められ、普通の会社以上に協調性が尊ばれる職場ではないでしょうか。
そこで長年勤められている風花さんの努力と工夫には本当に頭が下がります。
「こんな私に学校での役割があるとは全く思えませんでした。でも、今の私はいっぱいダメなことばかりでも、私にもできることがあると考えています。逆に言えば私にしかできないこと。
それが、私のような発達障害を持つ子どもに寄り添うことです。」
風花さんは障害児クラスを持つのではなく、普通学級を担任されていますが、普通学級でも6%もの特別な支援を必要とする子どもたちがいることがわかってきました。風花さんのクラスの発達障害を持つ子ども達はすごく恵まれているといえるでしょうね。
そんな風花さんと服巻先生の対談の中で、印象に残った一節を、少し長くなりますが最後に紹介させてください。
風花:
私がクラスを受け持った時、まず子ども達に話すことがあります。
それは「どんな人にも苦手なことと得意なことがあるよ」
ということなんです。
「みんな苦手なことないかな?」と問いかけると「あるある!算数が苦手〜!」「ドッジボールがにがて〜!」「漢字がきらい〜!」など続々でてきます。それを踏まえて、「そうだよね。苦手なことがない人なんてないんだよ。苦手なことは応援してみんなで助け合おうね。得意なことは人にどんどん教えてあげよう。苦手なものをちょっとだけがんばってやってみようとした時に失敗しちゃったら悲しいよね。そんな時、ひどい言葉をかけられたらどう?
もうやる気なくなるよね。だから、やる気が起こってがんばれるよう励ましてあげようね」と話した後、自分の苦手なことを話します。
「先生は覚えるのが苦手です。す〜ぐ忘れちゃいます。でもこんな風に一生懸命努力してるよ。それでもすぐ忘れちゃうかもしれないから、そのときは教えてね」 とか、「光や音がみんなの何倍も入ってきてね、すごく痛くなるんだよ」 など、どんどん具体的に苦手な部分を話して初めから助けを求めます。

そのことで、先生にだって苦手なことがあるんだと安心させることもできるし、私自身がみんなに理解してもらう第一歩にすることもできます。
子どもらの想像する 「苦手なこと」 とは、普通運動とか勉強とかなんですが、人の話を聞くこと、素直に謝れること、じっとしていることなど(ができないこと)も 「苦手なこと」 ととらえさせます。だってそうなんですからね。
普通悪いことして謝れない子は 「信じられない! すごい悪い子!」 って思われがちなんだけど、それも「すぐ状況を理解して謝ることが苦手な子」 と捉えさせるんです。すると少しは寛大に接することができますからね。 まあ、そう簡単でもありませんが。
服巻:
あら、それは良い話ですね。子どもにとって大人はなんでも知っていて欲しい存在だけれど、大人も 「間違ったり失敗したりする、苦手なこともある」 んですよね。その実際の姿を先生から、率直に正直に見せてもらっている子どもは、
『人は一人ひとり違っている。得意なことも苦手なこともあって、それで良いんだ』
『できないことは悪いことではなく、これから学んでいくのでも許される』
という基本的な人間関係を体験的に学んでいくことができるのではないでしょうか。
最近ギスギスした教育現場の話をたくさん聞いたところだったから、なんか、肩に力の入っていない気持ちの休まる話だなぁ。

 (「会報101号」 2006.9)


  目次

どういう大人になるのかな?
放っておいていいのかな?
大事なのは早期診断

  自閉っ子、故郷に生きる 藤家寛子さん

生活のバランスを探る
作家デビューと生活上の挫折
だから支援が必要だ!
身体の問題
食べることが怖い
「体育・命」はメーワク
「やせてていいなあ」
健康な人にはわからないこと
教師からのいじめ
解離が起きたわけ
感情と身体の関係
なぜ人を殺してはいけないのか
どうやって二次障害を防ぐか
やはり人との絆は大事
一日一つずつ
自分一人じゃない
情報処理の大変さ
家族のこと
将来について
佐賀牛
藤家さんとお会いして

  子どもの気持ちがわかるから 風花さきさん

みんなも我慢してるんだろう
なぜ教師を目指したか
こんな工夫をしている
感覚過敏とこーピング
同僚との関係にはこういう工夫をしている
保護者との関係にはこういう工夫をしている
私だからできることは?
二次性障害「うつ」との闘い
診断は大きなきっかけ
人との絆はやはり大事
癒し
これからのこと
子どもたちへのメッセージ
親へのメッセージ
さきさんとお会いして

  自閉ライダー、前進! 成澤達哉さん

わざとじゃないのに
家族の印象
学校生活
就職を考えたとき・・・
手先の器用さを活かしてみようか
職場で浮いてしまったのはなぜ?
「ファジーになりなさい」
一度覚えたやり方を変えられない
助言を求める大切さ
恨みの気持ちを清算できるか
復讐する事に意味があるか
企業の論理をしっておくと便利
「社会に適応する」って?
職場での適応努力
合った仕事を選ぶ
余暇の過ごし方
将来のこと
過去を清算する
最後にメッセージ
成澤さんとお会いして
あとがきに代えて 今回の対談スタイルと「自己認知支援」について

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