『 My フェアリー・ハート 』
わたし、アスペルガー症候群。
成澤 達哉:著 文芸社 定価:1500円+税
ISBN4−8355−7277−7 C0093 ¥1500E
小学4年生の少女、亜咲ちゃんを主人公とした小説です。彼女はアスペルガー症候群と診断されました。
そんな彼女が診断を告げられてから小学校を卒業するまでの物語です。これまで、日本で自閉症スペクトラムの人を主人公にした小説としては、「過ぎ越しの祭」(米谷 ふみ子)、「ヒロシとトニー」(小林 隆一郎)、「トミーの夕陽」(鶴島 緋沙子)「ぼくはうみがみたくなりました」(山下 久仁明)などがありますが、本書が大きく違うのは作者が高機能自閉症と診断された本人であることでしょう。
内容については小説ですからあまり詳しくは触れられませんが、本書の題名のように、この世界に迷い込んだフェアリー(妖精)の心を持った少女が、この人間界でなんとか生きていこうという物語です。人間界との軋轢、同種族との出会い、そして妖精界と人間界のつなぎ役の“友人”との巡り会い・・・物語はすすんでいきます。
たとえば、前述の「ぼくはうみがみたくなりました」が映画を観ているように引き込まれるのと比べると、本書は舞台劇を観ているような印象でした。
最初はセリフに感情がこもりすぎているような感じでしたが・・・それは、おそらく作者のこれまでの思いが伝わってくるせいかもしれません・・・、やがてそれが不自然と思えなくなるまでにストーリーに感情移入させられていきます。ひとつには、カナータイプの主人公に比べ、自分の感情を自分の言葉で表現できる亜咲ちゃんが主人公だったせいでしょう。そういえば高機能自閉症やアスペルガー症候群の人を主人公にした小説はいままであまりなかったですね。思いつくのはコミックの「この星のぬくもり」(曽根 富美子)ぐらいでしょうか。でもこれも物語というよりは、森口奈緒美さんの自伝的なストーリーでしたね。
その意味では、初めてのアスペルガー症候群の方を主人公にした小説かもしれません。また、小説という形はとっていますが、この物語を通してアスペルガー症候群や高機能自閉症に対して正しい理解を願っている本だと思います。一般の方にとっては専門書よりは読みやすい分だけ、多くの方が手にとって広く読んでいただきたい一冊です。
(「会報79号」 2004.. 11)
目次
1 不思議な女の子
2 人間界に迷い込んだ妖精
3 同種族との出会い
4 壊れた妖精の心
5 妖精の旅立ち
6 メッセージ・メッセージ
7 人と関わる、ということ
8 妖精の決意
9 揺れ動く妖精の心
10 人間界で生きる妖精
著者あとがき
この作品の読み方 アスペルガー症候群と亜咲