『 この星のぬくもり 〜自閉症児のみつめる世界〜 』
曽根 富美子:著・絵 ベネッセ 定価: 680円 + 税
ISBN4−8288−5545−9 C5077 ¥680E
この本は、ベネッセ発行の 「たまひよコミック SPECIAL」の1996年冬の号から1997年秋の号まで、4回にわたり掲載されたコミックの単行本化です。
取材協力は高機能自閉症の方、自伝も出版されている森口奈緒美さんです。なかでも最後の第4章は、森口さんの歩いてきた道、「変光星」に書かれたこれまでの人生、そのままだと思います。自閉症という理解されにくい障害、それにも増して高機能自閉症・アスペルガー症候群という・・30年前にはほとんど専門家以外には知られなかった障害でしょう。
正しい支援がなければ、相手の心がわからないというコミュニケーションの障害や社会性の障害ゆえに、学校内でも孤立し、いじめの対象とされたことは、容易に想像できます。家族以外には味方もおらず、高機能ゆえにたんなる「わがまま」「自分勝手」と批難され・・・森口さんの「変光星」や、2冊目の自伝 「平行線」にもあるように、当時の高機能自閉症の方は絶望の中で、苦しみながらもなんとか、なんとか生きてきたというのが実状ではなかったのでしょうか。
この本は3年前に出版されたコミックなのですが、ラストシーンでは希望が見え救い・希望も見えてきますが、それまでは読んでいて、親としてとても辛い話が続きます。
一方、今話題の自閉症児を描いたコミック 「光とともに・・・」、こちらの方は同じ涙でありながら共感の涙、「良かったね」という昇華されたような温かい涙が流れます。この違いはなんなのでしょう。
たしかに、普通学級の高機能自閉症やアスペルガー症候群の子どもたちが理解されにくくいじめにあいやすい、ということは今もありますが・・・やはり一番大きいのは、この二人、愛里ちゃんと光くんの間にある25年、四半世紀にわたる時の流れではないでしょうか。
当時の愛里ちゃんに与えられたのは、遊戯療法や受容療法あるいは抱っこ療法、一方でその反対のスパルタ教育、そんな中では愛里ちゃんは混乱から抜けだせませんでした。読んでいてハラハラして、ア、ヤッパリというような結果を迎えてしまいます。
光くんには (物語の中なのですが)、自閉症の特性を理解したうえでの、適切な支援があります。わかりやすい環境の中で、パニックをおこした時にもそれを最小限に抑え、助けてくれる暖かな手が家庭でも学校でも、そして地域の中にもあります。愛里ちゃんも、今、学校生活を送っていれば、もう少し違った、光くんのお世話をする上級生のお姉さん役が似合うのではないでしょうか。ドナ・ウィリアムズさんが、小さな自閉症児の気持ちがよくわかり、最高のお世話係となっているシーンを思い出しました。
たしかに 「この星のぬくもり」 は一面では悲しい本ですが、そこに必死で生きてきた真実の声があります。共感の叫びがあります。
・・・ただ、現在、障害を告知されて間もなくて辛い時期におられるお母さん方には、元気になっていただくめに、同じ漫画では 「 光とともに・・ 」の方をお薦めしています。
その時期を乗り越え、我が子に「頑張ってきたね・・」そう褒めてあげられるようになったころ、読んでいただきたい本です。「ホントにつらかったんだね、ホントに頑張ってきたんだね・・」 あらためて我が子を抱きしめたくなる、そんな思いにかられる本です。
(2002.7)