sorry,Japanese only

『 療育技法マニュアル 第3集
               
自閉症編

財団法人 神奈川県児童医療福祉財団


神奈川県児童医療福祉財団による、障害児のための療育技法マニュアルも第3集です。
第1巻が障害児一般を対象にする
「障害をもつ子どもたちへのアプローチ」、第2巻が「発達障害編」、そして第3巻は発達障害の中でも、「自閉症編」です。だんだん、私の特に知りたいことに収斂してきているように思えます。
でも、それはそれだけ “自閉症” というものが、発達障害の中でも、障害児一般の中でも重篤で、より支援を必要としている障害だということかもしれませんね。

本書は今から10年以上も前〈平成3年)に出版されたマニュアルですが、神奈川県という当時から自閉症療育の先進県でまとめられただけあって、今でもそのまま通用する参考書です。

中でも、佐々木正美先生の「自閉症の理解と関わり方」の中にある 「生活のシナリオ」の章の中にある・・・
主役を演じる自閉症児一人一人に、しっかり安定した日常生活上の振り付けや演技指導をしながら、過不足のないシナリオを練り上げていく作業
・・・それは、親としての役割だと思いました。
私のHPの最初に書いた言葉

我が家の末っ子、哲平くん。
自閉症という障害は持っていても、今はとっても楽しそうに暮らしています。
出来るなら、将来のいろんなライフステージにおいても、この幸せが続いていくよう、本人の生き方や周りの環境をプロデュースしておいてやりたい。
そんな願いから、このページを作りました。

それは、この佐々木先生の文からいただいたイメージです。
少し長くなりますが、「生活のシナリオ」の節を紹介します。もう10年来、心にとどめてきた文です。

自閉症児の示す困難な問題は、自分の周囲の事象を理解できないで混乱していることに由来するものが多いのであるから、療育者は症児が環境をどのように理解しているかいないのかを把握して、彼らがよりよく理解と適応ができるように、過剰な刺激や情報を排除し、単純で理解しやすい場面や日常生活の流れをつくってやることが必要である。
そのような「日常生活の流れ」を、筆者は自閉症児が主役を演じることのできる生活シナリオだと考えている。症児一人一人の能力や個性に従って、シナリオの内容を徐々に豊富で複雑なものに書き換えていけばよい。最初は定型的な科白や仕草を求めることか、次第にアドリブの多い一般の人たちの世界(舞台空間)に導いてやることが必要である。

療育者がこのような視点をしっかりもっていないと、自閉症児は、不安、困惑、混乱、恐怖といった状態に陥りがちで、防衛的な態度をとり、内容の貧困な、全くアドリブ的余裕のない、硬直した儀式的な日常生活のシナリオを自ら作成して、その中に自閉的に身を沈めることで最低限度の安らぎを得ようとするし、それもできないと、激しい自傷行為と不眠を伴ったひどい混乱状態に陥ってしまう。

療育者が当面自閉症児にしてやれることは、自閉症児一人一人に、彼らが主役を演じるような生活シナリオを書いて、それが演じられるように指導してやることであるが、そのためには、家族や教師や、その他医療や福祉関係の従事者はもとより、多くの一般市民の協力も必要である。それに、ありとあらゆる社会資源を、徐々に豊富に、シナリオの中や生活舞台上の大道具・小道具として取り込んでいく努力を、長い年月にわたって継続しなければならない。

そういう意味で筆者は、自閉症児の親に、多くの場合、有能な脚本家であると同時に演出家であることを期待してきた。
たとえば教師や医師は、演出助手か照明係のような役割を分担しているのだと思う。立派な劇場建設や舞台装置などは有能な行政官が担当するであろう。多くの市民は、衣装や音楽などを手伝ってくれたり、助演、脇役、通行人などとして共演してくれる。

主役を演じる自閉症児一人一人に、しっかり安定した日常生活上の振り付けや演技指導をしながら、過不足のないシナリオを練り上げていく作業は、必ずしも容易ではない。
ある症児には科白がひと言も書けないかもしれないし、別の子どもでは舞台空間の広がりを高校や大学に求めることができるし、豊富な内容の科白やアドリブの多い場面が用意できることもある。

しかしいずれにせよ、筆者の20年余りの経験では、シナリオのしっかりしていない日常の生活や学習の場の提供は、彼らに多大な不安や混乱をもたらしてしまうことを教えられてきた。
自閉症児一人一人に、やがて青年期・成人期を迎えるときには、職業的技能や余暇活動の楽しみかたも盛り込んだ人生ドラマ、「男の一生」や「女の一生」の優れた脚本を用意し、有能な演出家との二人三脚の日常生活を与えたいと思う。

(2003.12)


  目次

自閉症の理解と関わり方 ・・・・・・・・・・・ 佐々木 正美

1 脳障害と自閉症状
2 自閉症とてんかん
3 失認・失語・失行症状
4 統合過程の障害
5 機能系の解離
6 身体イメージ (身体図式)
7 障害理解のまとめ ― 心因論から神経心理学的理解へ
8 診断と評価
   (1) 診断
   (2) 評価
9 療育
   (1) 構造化
   (2) 日常生活のルーチンプログラム
   (3) 療育のまとめ ― 生活のシナリオ

診断と評価 TEACCHプログラム
   
― CARS、PEP、AAPEP ― ・・・・・・・・ 青山 均

1 TEACCHプログラムの概要

2 自閉症の診断とCARS (小児自閉症評定尺度)
   (1) CARSの特徴
   (2) CARSの利用
   (3) CARSの概要
   (4) CARSの評定尺度例
   (5) CARSの評定例
   (6) CARSの年長児への実施
3 クラスルームプログラムと評価
   (1) 何故、評価は必要なのか
   (2) 評価の情報源をどこにおくか
   (3) 指導目標の変遷
   (4) 教室での主要システムとセッティング
4 青年期及び成人期のための評価
   (1) AAPEPの特徴
   (2) AAPEPの概要
   (3) AAPEPの項目別
   (4) AAPEP検査プロフィール例
5 おわりに

幼児期自閉症の治療教育
   ― 1例のデイケア治療を通して ― ・・・・ 清水 康夫

はじめに
1 症例 男子 (1981年8月生)
   (1) 病歴
   (2) 初診時の所見
2 東大病院精神神経科小児部デイケアの治療教育
   (1) 治療教育の3つの基本目標
   (2) はたらきかけの2つのタイプ
   (3) 母親への助言と指導
   (4) デイケアの日課
3 デイケアにおける治療教育の経過
4 現時点における状態の評価
   (1) 全体的評価
   (2) 検査
5 発達領域別の所見と療育のポイント
   (1) 領域別の重点配分
      1) 運動
      2) 生活習慣
      3) あそび
      4) 言語理解
      5) 話し言葉
      6) 身振り・視線・表情
      7) 認知
6 行動異常への対処
   (1) 治療教育の中での行動異常への対処の位置づけ
   (2) 薬物療法
7 今後の治療方針
   (1) 重点配分
   (2) 将来の問題
おわりに

思春期・青春期の困難な問とその対応 ・・・・・・・ 中根 晃

1 “いわゆる年長自閉症” と “青年期自閉症”
2 軽症・中等症例における青年期
3 青年期自閉症の病理的行動をめぐる2、3のコメント
4 自閉症治療における2つの方向
5 問題行動の具体的対処
   (1) 自傷行為
   (2) 頻尿と嘔吐
   (3) 知覚過敏に伴う攻撃行動
6 社会参加にかかわる諸問題
   (1) 卒業後の社会生活
   (2) 余暇の過ごし方をめぐって
   (3) 性教育をめぐって

日常の生活指導 ― 施設生活を通して ― ・・・ 近藤 弘子

はじめに
1 取り組みの手がかりとして
2 具体的な指導と留意点
3 自閉症の特質と日常生活指導
4 施設における日常生活指導の留意点
おわりに

自閉症児・者の薬物療法 ・・・・・・・・ 武貞 昌志

はじめに
1 自閉症概念の変遷と薬物治療
   (1) 養育環境を重視する立場
   (2) 生物学的側面を重視する立場
   (3) 養育環境と生物学的要因の両面の立場から
2 自閉症と薬物治療
   (1) 成熟障害へのとりくみ
   (2) 発達障害へのとりくみ
   (3) 問題行動へのとりくみ
3 薬物治療の実際
   (1) 自閉症症状に対して
   (2) 多動症候群に対して
   (3) その他の問題行動に対する薬物療法
4 薬物療法の問題点
   (1) 効果判定上の問題
   (2) 副作用の問題
おわりに

親トレーニングのためのマニュアル
  お母さんのための行動変容法 ・・・・・・・ 幸田 栄・志賀 利一

はじめに
1 記録のとり方
2 課題学習
3 何を教えるか
4 日常生活の指導
5 不適切行動への対応
6 行動変容法の理論


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