sorry,Japanese only
『 TEACCHプログラムによる日本の自閉症療育 』
佐々木 正美:監修 小林 信篤:編著 学研 定価:1900円+税
ISBN978-4-05-403367-2 C3337 ¥1900E
佐々木正美先生によりTEACCHプログラムが日本に紹介されてから25年が過ぎました。
ようやく日本でもその裾野が広がり、広く自閉症療育の現場でもTEACCHプログラムによる実践が行なわれるようになりました。そして本場のノースカロライナの先生方をお呼びして、共に学び、共通の問題に対し討論しあえるコラボレーション・セミナーも開かれるまでになりました。
本書はそんな日本各地の療育現場で行なわれている実践を紹介したものです。
その意味では、先に会報でも紹介した「自閉症のTEACCH実践」「 同 U」などの姉妹版とも言えると思います。ただ、前著が先進的な実践を行なっている「ひよこ園」などを詳しく取り上げているのに対し、本書はもっと幅広く、しかもライフステージ別に各地の実践や、現在最前線で活躍している指導者を網羅しているのが特長でしょう。
監修者である佐々木正美先生や編者の小林信篤先生をはじめ、新澤伸子先生、梅永雄二先生、志賀利一先生、坂井聡先生など、20数名の先生方が寄稿されています。
また一方で、佐々木先生や小林先生と同じ川崎医療福祉大学TEACCH部の重松孝治先生や下田茜先生らも執筆されており、いまや日本のTEACCHの中心が岡山にあるように感じられ、私たちにとってもとても心強く思われる一冊です。
本書の構成は、まず総論として佐々木先生がこれまでのTEACCHプログラムの発祥とその後の経緯、故ショプラー先生やマーガレット夫人との思い出などを綴られ、この本がショプラー先生に捧げる日本よりの追悼と感謝の書であるということを著しています。次に幼児期から学齢期、青年期への支援が続き、間に医療現場や地域の発達障害者支援センターからの支援の様子なども挟んで、自閉症児・者の一生を見通した支援の大切さを訴えています。
各章、各節をとりあげても、それぞれが一冊モノとなるようなテーマと実践ですので、これだけで日本の自閉症療育全体を大きくつかむことのできる本だと言えるでしょう。ただその分、各執筆者の分量が少なく、実践例もサンプルの一つだけに終る箇所もあり、若干物足りなさを感じることもやむをえない気がします。
しかし、その中でも印象に残って感じさせられるものも多かったです。
例えば、中山清司氏の京都市発達障害者支援センターかがやきでの高機能自閉症者への支援例です。
障害者手帳をとりたい。⇒手帳取得の手続きとサービスの概要を説明。窓口手続きにスタッフが同行。
家族や職場の同僚が理解してくれず、不利益をこうむっている。⇒職場訪問や家族面接を行い、関係者に特性理解と具体的な対処方法を伝える。
専門学校や大学で、学業についていけない。⇒在籍する学校関係者と連携し、学校生活における支援内容を確認、助言する。
仲間が欲しい。ふだん、行き場・居場所がない。⇒「成人ソーシャルクラブ」への参加。医療機関のデイケアなどの情報提供。 etc・・・
日本でも、発達障害者支援センターによる行政サービスとして、ここまでできるようになってきたのですね。日本のどこにいても地域の発達障害者支援センターで、このようなサービスが受けられるようになったら、ずいぶん助けられる成人の方も多いと思います。
また、横浜市発達障害者支援センターの関水実氏のことばも興味深かったです。
現場の援助経験からは例えば「アスペルガーは荒野を目ざす」という印象が強い。高機能自閉症は「生活の枠づくり(構造化)」が有効な場合が多いが、アスペルガー症候群の場合、構造化された環境を踏み越えていく印象を受けるのだ。
アスペルガー症候群の人に対しては、環境調整・構造化は、単に物理的・環境的なもの以上に「支援者との継続的なかかわりによる生活の枠づくり」が重要となる。
しかし、高機能自閉症・アスペルガー症候群ともに、図示など視覚的に整理された、明確な情報の提供は有効であり、ことばに頼った面談や援助は、結果的に混乱を招く場合が多いことを、あらためて指摘しておきたい。
後半にあるように、TEACCHでは高機能自閉症とアスペルガー症候群を分けて支援することは少なかったのですが、その中でもやはり現場での両者への実際の対応には違いが必要なのかもしれませんね。
では最後に、今秋の育てる会のキャンプのスーパーバイズもお願いしている重松孝治先生の余暇支援でのポイントについて述べられている箇所を紹介します。
一つ目は、余暇活動であっても支援においては「教える」というプロセスが必要になってくることである。視覚支援は確かに有効な手段であるが、視覚化しただけで、急に何でもできるようになるわけではない。最初はその支援の意味や使い方を理解しなければならない。・・・
二つ目は、楽しめる活動にすることである。・・・余暇支援では評価のプロセスの中でも、特に本人の興味関心を重視する。つまり支援の方向性として、本人の好きな活動をより自立して、より社会的な活動として実施していくことを目ざすのである。
三つ目は・・・と、まだまだ、余暇支援へのポイントは続いていきますが、これを読んだだけで今年のキャンプがワクワクと楽しみになりますね。
紹介したい箇所はまだまだありますが、どの先生方の文も絵や写真が豊富で、さすが視覚支援に慣れた方々ですので、とても読みやすい一冊になっています。ぜひ一度手にとってお読みください。
(「育てる会会報 124号」 2008.9)
目次
総論
TEACCHプログラムの原理と日本の今 ・・・・・・・・・・・ 佐々木 正美
第1章 幼児期の診断と支援
幼児の診断と評価 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 新澤 伸子
早期幼児期/家族対応(2〜3歳) ・・・・・・・・・・・・・・ 幸田 栄
地域療育センターの取り組み ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 安倍 陽子
第2章 学齢期の支援
小学部での取り組み ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 西村 則子
インクルージョン教育 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 浅井 郁子
中学校での取り組み ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 石井 幸子
コミュニケーション支援 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 坂井 聡
第3章 医療現場での取り組み
診療時の配慮 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 大屋 滋
障害者歯科の現場にて ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 森 貴幸
第4章 早期からの地域と家庭における支援
発達障害者支援センターの働き ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 井深 允子
余暇活動 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 重松 孝治
居宅介護における学童支援 ・・・・・・・・・・・・ 喜納 卓也・並里 丈幸
家庭生活 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 金子 啓子
高機能自閉症・アスペルガー症候群の人たちへの支援 中山 清司
第5章 自立を目ざす青年期の支援
居住施設での取り組み ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 中野 伊知郎
通所施設での支援 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 後藤 博行
ケアホームの実際 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 竹内 勉
発達障害者支援センターの働き ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 関水 実
就労支援 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 志賀 利一
第6章 支援者養成の最新情報
トレーニングセミナ−の目的と効果 ・・・・・・・・・・・・・・・・・ 下田 茜
【レポート】TEACCHトレーニングセミナーレベル2 ・・・・・・ 小林 信篤
TEACCHプログラム日本の最新事情 ・・・・・・・・・・・・・・・・ 梅永 雄二
あとがき ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 小林 信篤
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