sorry,Japanese only

『 自閉症のTEACCH実践 2 』
佐々木 正美:編 岩崎学術出版社 定価:3500円+税
ISBN4-7533-0507-4 C3011 \3500E

前著、「自閉症のTEACCH実践」に続き、日本の各地で行なわれている実践報告です。前著がTEACCHの理論や哲学を元にして、いかにその理念を活かして実践を行なっているかに主眼を置いていたのに対し、本書ではTEACCHの有効性は既にこれまでの実践において実証されたとの立場に立って、より具体的な実践報告の場となっています。
ただ各章のページ数は限られているため、本書だけでは物足りなさを感じてしまう方もいるかもしれません。各所の実践報告といっても、どちらかというと理念よりは、実際に行っている具体的な支援のやり方が中心です。
もちろん、TEACCHの基本の一つは、一人ひとりの特性に応じた個別的な支援にあるのでしょうから、ここで登場する具体的な支援についても、あくまでA君やBさんに対する支援ということになります。従ってそれは、そのままでは目の前の我が子に合うとは限りません。でも「その子に合わせた」支援があると言うことは、「どの子にも合わせられる」支援があるということですね。
実際に、本書の最初に登場する、愛媛の「ひよこ園」に見学に行かせていただいた時には、どの子にもそれぞれ配慮された支援が、いたるところに見受けられました。TEACCHにはどの子にも有効だというような画一的なマニュアルはありませんが、一人ひとりの自閉症としての特性や、その子の個性や家庭の状況、そして発達レベルに配慮していけば、その子に合わせた支援が工夫できる、というのを改めて実感させられました。
そして、その個別に配慮された支援が必要なのは、就学前の「ひよこ園」に限らず、学童期、青年期、そして成人になっても変わらないというのを教えてくれるのも本書です。
もちろん、支援の質は変わっていきます。コミュニケーションの力を引き出そうとする幼児期と、その持っている力でお互いに有効なコミュニケーション方法を見つけようとする成人期では違って当然ですね。
そのため、「ひよこ園」での支援と、成人入所施設である「星が丘寮」の支援、大きく違っているように見えますが、その根底に流れるTEACCHプログラムの活用技法やその精神は同じものであることを本書は教えてくれると言えるでしょう。
成人期入所施設として知的障害の程度にかかわらず多くの自閉症者を引き受けてきた。これらの人たちはほとんどが地域生活を継続できないほど重篤な行動障害=破壊、他害、自傷、飛び出し、不眠、過拒異食による肥満や痩身、外出拒否等々=を有し、身近で支援する家族等に限界に近い疲労状態を招いている。
自閉症の人たちの、行動障害は周辺で起こる事態を的確に把握できず、どう自分を処したら良いのか分からない為に起きていると理解したい。どのように行動すれば良いのかをきちんと伝えてあげることが重要である。知的障害が重い為に伝えにくい点はもちろんあるが、機能レベルのアセスメントなしに「何もできず、行動障害を示す人」と言うレッテルを貼り、本人のせいにすることは許されない。多くの自閉症者が極めて生活や作業に高い能力を示し、必要に応じた支援があれば職場で働く事や実習活動に参加でき、グループホームなど住まいを地域の中に定めることができる。
その意味でも自閉症という障害の特性を理解しながら幼少時からの一貫性のある継続的支援が不可欠であろう。 
 (「第5章 成人入所プログラム」 寺尾孝士・近藤弘子より)
ここで訴えられているように、幼児期から成人までの「障害の特性を理解しながらの一貫性のある継続的支援」こそが、TEACCHの目指しているものであり、本書で繰り返し述べられている、この本を世に出す目的だったと言えるでしょう。
自閉症に関わる全てのライフステージの支援者の方に読んでいただきたい一冊です。
補足:本書の「第6章 就労を可能・不可能にする因子の分析」を書かれた中西仁志氏は、川崎医療福祉大学の学生時代にボランティアサークル『「岡山県自閉症児を育てる会」を支える会』を作り、その初代部長として会の活動を支えてくれた方です。
今では育てる会のメンバーも入れ替わり、当時のことをご存知ない方も増えてきたと思いますが、そんな意味でも私にとっては身近に感じられる本となっています。
(「育てる会会報 108号」 2007.4)

  目次

序文 ・・・・佐々木 正美
第1章 保育園の取り組み ・・・・ 矢野 理絵・長濱 恵子
第2章 幼児通所プログラム ・・・・ 豊田 祥代・藤岡 紀子
       ひよこ園の取り組み、その後
第3章 障害児学級での実践 ・・・・ 上林 延子
       落ち着いた学校生活が過ごせるために
第4章 学校教育プログラム ・・・・ 安田 順子
第5章 成人入所プログラム ・・・・ 寺尾 孝士・近藤 弘子
第6章 就労を可能・不可能にする因子の分析 ・・・・中西 仁志
第7章 作業所での自閉症支援 ・・・・ 中村 公昭
第8章 成人通所施設においてTEACCHの理念を生かす ・・・・ 小林 信篤
        “わたげ” の取り組み
第9章 自閉症・発達障害支援センターのしごと ・・・・ 井深 允子
       滋賀県自閉症・発達障害者支援センターの現状と今後の方向
第10章 家庭での実践 ・・・・ 山瀬 正己

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