sorry,Japanese only

『 おっちょこちょいにつけるクスリ 』

高山 恵子:編著 えじそんくらぶ:著 ぶどう社 定価:1600円+税
ISBN978-4-89240-191-6 C0036 \1600E

夏休みということもあり、いつもの自閉症に関する書籍の紹介とは今回は少し離れて「ADHDなど発達障害のある子の本当の支援」と副題にある通り、メインテーマがADHD(注意欠陥多動性障害)の子どもに対する支援の本の紹介です。
ただ発達障害支援法や特別支援教育が、その支援の対象として高機能自閉症・ADHD・LD(学習障害)などいわゆる軽度発達障害の児童を含めて捉えているため、これから教育行政(学校)や厚労省(障害施策)に向けても、一緒にスクラムを組んでいくためには、これらの障害についてもある程度知っておくことが必要でしょう。また、注意欠陥・多動などは自閉症にも同じ特性を持つ子も多く、読んでいてその支援には参考になることも多かったです。
本書は、第1部では「えじそくらぶ」に入っているお母さん方がご自身の子育てでの体験談を綴って、それに代表である高山恵子さんが、それぞれにADHDとしての理解や補足、支援の考え方や方法を解説するという形をとっています。
以前、紹介した「条例のある街」の本の中で、野沢和弘氏が、「最初は障害者本人や家族が、自らの障害がいかに大変であるかを、お互い声高に言うばかりで、なかなか共通の問題としして意見をまとめられなかった」というような一節がありましたが、確かに私たちも「自閉症ほど、大変で、社会の理解も乏しく、子育てに困難さを伴う障害はない」というように思いがちですね。でも本書を読んで、ADHDの子を持つお母さんには、ADHDなりの子育ての悩みや葛藤があることが伝わってきます。
高機能でもカナータイプでも、それぞれに特有の悩みがあるように、お腹を痛めた愛しい我が子の子育てに悩むお母さんには障害の種別による悩みの軽重はないのでしょう。
ただ、私が一番「大変だなぁ」と痛感させられたのは、やはり本書の中でも、ADHDとアスペルガー症候群を併せ持つお子さんのケースでした。また、ADHDとアスペルガー障害や自閉症が同時に診断された場合には、より重篤(?)な自閉症やアスペルガー障害と診断されると聞いたことがあります。やはりこうしてみると、やっぱりより深刻なのは自閉症のような気がしてしまいます。・・・でも、それを主張しても前進はないですね。
お互いの大変さを理解しあって、協力しあえるところは手をとりあっていきたいと思います。
もう一つ、本書を読んで印象深かったのは、薬に対する違いでした。自閉症の場合の薬物療法は、対処療法で、それも自閉症の本質部分(コミュニケーションや社会性、想像力の弱さ)などには効果が認められないのですが、ADHDの場合には全員ではないにしろ、多くの子どもたちにその主要症状である注意欠陥や多動性をカバーできる薬、リタリンが発見されているということです。
ただ、親や本人の方が、本書で書かれているように、そのADHDの部分を薬で抑えて、おとなしく、無口になった彼は本当の彼なのでしょうか、という問題です。これが本書の第2部のテーマです。
題名にあるとおり、おっちょこちょいな部分を含めての彼が、本来の彼の愛すべき個性ではないでしょうか。
身体の病気なら薬で治すのはみんなが賛成するでしょうが、それと同じように薬を使うことが本当に良いのかと悩むご両親には共感できます。
律儀で素直で、融通は利かないけれど生真面目にがんばるのは、自閉症の子どもたちの愛すべき特性ですね。確かにそれらの自閉症の部分を含めて丸ごと、私たちは彼らを愛しています。将来、もし自閉症を治す薬が発見されたら、無条件に私たちはそれを使うのでしょうか?
また、もしそんな薬が発見されなかったとしても、障害も個性の一部としてとらえようとして、障害に効果があるのはわかっていても、薬に依存するのをためらうお母さん方の姿勢は、私たちが学んでいくべきもののように思えます。
そう思うと、本書の題名「おっちょこちょいにつけるクスリ」は軽いノリかと思っていたのですが、奥には深いものがあったのですね。
自閉症児を持つ親の方にも、少し余裕があったら読んでみても・・・そう思われる一冊でした。
(「育てる会会報 123号」2008.7)

  目次

プロローグ
私たちの「ADHDストーリー」 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 高山 恵子
ケイはケイらしく生きて!  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 吉野 みのり
第1部 ADHDのある子を、どう支援するか
      「家族の体験と想い」+「かいせつ」
見えにくい障害 − わかってもらえない辛さ ・・・・・ 小野 佐由美
   かいせつ ADHDは理解と支援で、個性にも才能にも
この子と死のう −  闇から光りへ導いてくれた医師 ・・ 橋口 亜希子
   かいせつ 共感と理解による保護者支援で、虐待を防ぐ
誕生から高校まで − そのままの君でいいよ ・・・・・・・ 麦野 風子
   かいせつ 告知と受容は急がず、特性をよく理解してから
校長先生と出会えて、私たち親子は救われた! ・・・・・・ 阿部 優美子
   かいせつ 昔から熱心な先生方が培ってきたものを、特別支援教育に
この子に合った方法を楽しく見つけたい! ・・・・・・・・・・ 川崎 由紀子
   かいせつ 共感や思いやりで、セルフエスティームの日本式高め方を
どん底だった私が、ペアトレを学んでプラス思考に! ・・・ 楠本 伸枝
   かいせつ ペアトレで子どもとのかかわり方を学び、親も元気に
父親として、妻と子どもを手助けできたら ・・・・・・・・・・・ 吉野 晃一・珠恵
   かいせつ お父さん、サポーターになってください
第2部 薬を飲むことをめぐって
      
「親」+「本人」+「専門家
薬を飲むと、おしゃべりな息子が無口に ・・・・・・・・・・・ 小野 佐由美
なぜ薬に依存していったか、そしてどう抜け出したか ・ 矢島 総司
薬についてのQ & A - 医学的見地から ・・・・・・・・・ 田中 康雄
セルフエスティームを高めることここそ本当の支援 ・・・ 高山 恵子
第3部 「えじそんくらぶ」のねがい
「えじそんくらぶ」誕生から今日まで、そしてこれから ・・ 高山 恵子

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