sorry,Japanese only

『 アスペルガー的人生 』

リアン・ホリデー・ウィリー:著 ニキ・リンコ:訳 
東京書籍 定価2000円 + 税
ISBN4−487−79723−3 C0037 ¥2000E


自閉症というのは、いまだ誤解されやすく、理解されにくい障害ですが、それでも少しずつ理解の輪が広がってきています。同時に、同じ自閉症スペクトルでありながら、これまではほとんど知られなかった高機能自閉症やアスペルガー症候群のことも認知されるようになってきました。

これまでは「変わり者」としか見られていなかった子どもや、そして大人たちの中で、「じつはアスペルガー症候群ではないか・・」ということに気づくケースもでてきました。
筆者、リアン・ホリデー・ウィリーさんもそんなお母さんのひとりです。教育学博士であり、三児の母であるリアンさんは末娘さんの診断で初めてアスペルガー症候群について知ることになります。そして、それまで幼い頃から、とまどいながら生きてきた自分の人生の謎が解けたわけです。
まさに 『 Living with Asperger’s Syndrome 』だったのです。
少し長くなりますが、「まえがき」の前・・「まえまえがき (^_^;) ?」として書かれている「著者ノート」を紹介します。

『 トニー・アトウッドの著書「ガイドブック アスペルガー症候群」によれば、成人の場合、家族のだれかがAS(アスペルガー シンドローム)と診断されて初めて、自分もASだと気づく例が少なくないという。私の場合もそうだった。私には7歳になる娘がいる。1年前、この子はASという名前をもらうことになった。
これが契機となって、私の家族も、そして私も、自分たち自身について、これまで知らなかったことに次々と目を開かれていくことになる。

それまで私たちはだれも、ASなんて言葉は聞いたこともなかった。ところが、ひとたびASのことを知ってしまうと、どうだろう。われわれ一族のあの人も、この人も、AS的な特徴や性質にあてはまるではないか。
そして、私もその一人だった。

私はまだ自分がASなのかどうか、調べてもらったことはない。現段階では、私の住んでいる地方では、成人のASの診断を行なえる人が見つからないのだ。でも、そんじゃことは気にならない。私は、どうしても正式な診断を必要としているわけではないのだ。自分はすでに知っていることを、あらためて教えてもらうだけのことだから。

そんなことより、私が切実に必要としているのは、情報だ。
娘を援助するにはどうするのがいいのか?
私がこれからも成長を続けていくには、何をすればいいのか?
世間一般の人々にもっとASのことを理解してもらうには、何を伝えればいいのか?
もっともっと知りたいことがたくさんある。

私は願っている。みなさんがこの本を読み終えた後、自分自身について、あるいは、愛するだれかについて、それぞれに学びの道を歩み始めてくれることを。 』

リアンさんは理解あるご主人と娘さんたちに囲まれて幸せな人生を送られています。家庭生活では多少支援を必要とすることもあります。
でもそこには・・「もう、お母さんってドジなだから」そんな愛情いっぱいの笑い声が聞こえてきそうです。
また、そんなお母さんだからこそできることもあります。
ASのお嬢さんにとって、最も理解ある支援者になれることです。これほど本人の気持ちをわかってくれるお母さんはなかなか見つからないですネ。

リアンさんは、同じASで困っている子どもたちのために、自らの経験から生み出したアドバイスもまとめてくださっています。
本書の後半は、そんな文字どおりの 「ハウツー編」です。

例えばカムアウト(障害について打ち明ける)する際にも、プラスになることや、リスクだけでなく、
「知っておいてもらう必要のある人たち」 、a・・・・、b・・・・、c・・・・、
「知ってもらわなくても何とかなるかもしれない人たち」、a・・・・、b・・・・、c・・・・ と分けておく。
というような具体的なハウツーです。

ここで例にあげられている分類はあくまで、リアンさん自身の分け方ですが、納得できると同時に、ここまで分けて書いておかなければいけない・・・特に下のeの項目などには、いかにもリアンさんらしい「AS的な几帳面さ」に思わず感心してしまいました。

 「知ってもらわなくても何とかなるかもしれない人たち」

a ほぼ行きずりに近い人々。販売員、ウェイターやウェイトレス、受付係、役所の人、修理作業員など、必要な時しか話すことない人々。
b 教室、職場、ジム、近所などで、たまに顔をあわせる人々。
c 親戚や昔の友人で、今は疎遠になっている人。
d 子どもの学校の先生、子どもの友だち、その親。
e もう二度と出会わないであろう人々。順番待ちの列、混雑した映画館、人通りの多い道で出会う人々など。

ASの方、ASかもしれないと思っている方、みんなに助けになるし、そしてほんのり幸せな気分にもなれるお薦め本です。

(「会報 55号」 2002.12)


  目次

序文 ・・・・・・・・・・・・・・・・トニー・アトウッド

謝辞
著者ノート
まえがき

1 幼少の頃

2 ティーン時代

3 大学時代

4 社会に出て

5 理解者を得て

6 わが子を育てながら

7 ASと知って


  ハウツー編

T まわりの人に自分の困難さやニーズをどう伝えるか

カムアウトしてプラスになるかもしれないこと
カムアウトにつきまとうリスク
カムアウトする範囲と戦略は上手に選ぼう
考えられるカムアウト戦略

U 大学での生き残り術(サバイバル・スキル)

社会性の障害に対する援助
キャンパス内の移動のために
時間と努力を最大限に活用するには
大学生活でのストレス解消法

V 職業の選択と責任

仕事を選ぶために、まずは「自分」を知り、理解しよう
理想の仕事を手にするために
仕事で成功するためには

W 日常生活の雑事を混乱せずにこなすには

色を使った分類法:誰にでも出来、たいていの物に使える整理整頓法
混雑した場所を避け、感覚の負担過剰を防ぐには
混乱せずに1日を乗り切るには

X 感覚にまつわる問題に対処するには

触覚過敏
視覚過敏
聴覚過敏
食物にまつわる過敏
嗅覚過敏

Y ASではない援助者たちに知っておいてほしいこと

家族・配偶者・親しい友人の方へ
教育関係の方へ
雇用主の方へ

Z 用語解説

[ 役に立つ情報源・書籍

訳者あとがき ・・・・・・・・・・・ ニキ・リンコ

本書を読んで ・・・・・・・・・・ 落合みどり


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