就学について

トチタロ

―ある日の連絡帳より―

 『 哲平君の靴下、薄くなったところを私に見せ「チクンしてください。」といってきました。「お家でしてもらおうね。」と言ったのですが、「どうしても」と涙ぐんでしまい、結局形ばかりですがガーゼを当てて縫い付けました。 』

 その日帰ってきた哲平が、「学校、チクン。」と言いました。生まれて初めての学校での出来事の報告です。連絡帳がなければ何のことだかわからなかったかも知れませんが、「そう、学校で先生に靴下をチクンと縫ってもらったのね。」と答えると、自分の言ったことが通じたのが嬉らしくニコッと笑いました。個別学級に行かせて良かったと思えるのはこんな時です。


 さて、哲平の学校でも来年の就学に向けて就学児検診も始まり、またその季節を迎えようとしています。

 二年前を思い出し、先輩から頂いたアドバイスで本当に有り難かったものや、次の方の参考になれば、と私の乏しい経験から幾つか紹介させていただきます。

 

教訓 その1 自らの目と足で探せ

 色々考える事はあると思いますが、まずは自分の目で実際に見てみる事が一番。その際前もって連絡して話だけでなく、授業参観もさせてもらう事。
 また学校訪問や教育委員会への相談の時は、会社に無理を言ってでも、出来るだけ夫婦揃って行く事。相手方の対応も違いますし、何よりその後の進路決定において夫婦の意見を一致させる為にです。もちろん、事前にもご夫婦で話し合って(少々の幅はあるにせよ)、ある程度の統一方針は決めておいたほうがいいと思います。
 子育ては夫婦の共同責任。くれぐれも奥さんだけに責任を押し付けてしまわないように…。

 

教訓 その2 味方を増やせ

 障害児は健常児に比べると少数派です。なかでも自閉症児ともなると圧倒的に少なく、普通校に行けば全校でただ一人、という事もあるでしょう。
 そこで必要なのは、まわりに理解者の輪を広げていくということに尽きるのではないでしょうか。それはもちろん“八方美人になれ”というのではなく、親として主張するべきことは主張し、意見の対立する時もあるけれど、その分応援してくれる人も多いという状態がいいと思います。

 例えば、一方に「どんな障害児でも分けられるべきではなく、普通学級で差別されずに同じ教育を受ける権利がある。そして学校・行政にはそれを保障する義務がある。」という意見があり、我が家にもそう主張してこられる方もいました。
 しかし、我が家で出した結論は「子どもの現在持っている能力と、学校側の現状を見て、哲平にとっての最善と思われる道、進路を選ぶ。」というものでした。

 これにはみなさん、いろいろ異論・反論はあると思いますが、その是非は別の機会に譲るとして、ともかくそう反論していく中で、行政側や学校関係者の中にも味方や理解者ができてきました。おかげで、就学時においては、障害児への理解ある学校への地区外からの入学もすんなり認められ、二年生からは、哲平一人のために情緒障害児学級までも作っていただき、今とても満足している毎日です。

 

教訓 その3 長い目で「今」を見ろ

 これは既に成人された自閉症児をお持ちで、自ら作業所を作って頑張っておられる先輩からいただいたアドバイス。

 「人生全体からすると、学校に通うのはせいぜい10年ちょっとの短い期間。
“どんな学校生活を送らせるか”という事より、
“卒業後どんな人生をおくらせたいか”という視点から学校を選ぶという事の方が、それからの長い人生から見ると大切な事。

 就学前、養護学校にしようか、個別学級にしようか迷っていた私達です。(哲平の日本語理解力からして、時間中お客様にしかなりえない普通クラスは、最初の段階から候補よりはずしていました)それでも、将来できれば地域で暮らさせたいと願っています。
 その為にはまわりに一人でも哲平を知っている人を増やしておきたいと思い、幸い身辺自立はなんとかできていましたので、遠くの養護学校は止め、障害児に理解のある隣の学区の個別クラスを選びました。(不思議な事に、この学校の方が、本来の学区の小学校よりずっと近所なのです。)

 その後、この先輩(自閉症協会兵庫県支部の田中涼子さんです)には、岡山に来ていただいてお母さんたちのために講演をしていただいたり、運営されている高砂市の作業所を見学させていただいたりと、お世話になり続けです。ありがとうございます。
また、田中さんチのお兄ちゃん(当時 中学生、現在は小学校の先生をされています)の書かれた
「僕の妹」、ぜひ自閉症児の兄弟を持つご家族の方に読んでいただきたい体験談です。

 最後に私からもう一言。就学を控えたこの時期、いろいろあせる事も多いと思います。思いきってこの際、親としてあせるのが、むしろ当たり前と居直るべきではないでしょうか。IEPをとりいれた福祉先進国や、ノースカロライナのTEACCHプログラム、一方でそんな世界があることを知りながら、現実の我が子の学区の現状を見渡した時、“あせるな”、という方が酷なような気がします。そう、お父さん、あせって当り前なんです。

 でも、ただ一人で悩むのだけは止めて、お子さんを囲むみんなで、今選べる道の中から子どもにとって最善と思われる道を考えていきましょう。その為の仲間です。ない知恵をもう一度絞ってみましょう、そんな時のための仲間ですと、
これが私からの最後の
教訓 その4です。

(平成7年10月20日)

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