タイタニックのライバルたち

 

    タイタニックは1912年4月に、世界最大の客船(46,328総トン)として誕生したのですが,この第一次大戦前夜の時代は、客船が急激に大型化した時期でした。 1838年に初めて北大西洋航路に蒸気船が登場して以来、19世紀後半の数十年間で着実に発展を遂げてきた定期豪華客船が、まさにその黄金時代を迎えつつあった時期でもありました。

  タイタニックの5年前,1907年に、ルシタニア(31,550総トン)とモレタニア(31,938総トン)の姉妹船が登場して、マンモス船時代の幕が切って落とされました。 そしてその2船に対抗すべく建造されたのが、タイタニックとその前年に就航した姉妹船オリンピック(45,324総トン)です。 またドイツでも、タイタニック級をさらに上回る大型船を建造中で、その第1船インペラトール(52,117総トン)はタイタニックの翌年1913年に就航しました。 さらに翌1914年には、アキタニア(45,647総トン)とファーターラント(54,282総トン)の2船が就航しています。

 
 
   
 
       
タイタニックとそのライバル
    就航年   総トン数   全長   船主および国籍 エンジン出力   航海速力
  ルシタニア 1907    31,550   239.9m   キュナード(英国)   72500 馬力    25 ノット
  モレタニア 1907    31,938   240.8   キュナード(英国)  72500    25
  オリンピック 1911    45,324   268.8   ホワイトスター(英国)  56000    22
  タイタニック 1912    46,328   268.8   ホワイトスター(英国)  56000    22
  インペラトール 1913    52,117   280.1   ハパグ(ドイツ)  62000    23
  アキタニア 1914    45,647   274.6   キュナード(英国)  60000    23
  ファーターラント 1914    54,282   289.6   ハパグ(ドイツ)  65000    23

 

    これら4万5千トン〜5万トン台の大型客船が、華麗に覇を競うはずでしたが、タイタニックはあのように処女航海で遭難して失われ、また 1914年に第一次大戦が勃発したために、これらの客船は栄光の場を奪われることとなります。 そして大戦後の荒廃から世界がようやく立ち直った1930年代、定期豪華客船はその絶頂期を迎えるのです。(ただしそのとき主役となるのは,タイタニックたちの次の世代の客船たちなのですが。)  

                   
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    映画の中でアンドリュース技師が,ローズやイズメイ社長たちと食事しながら会話しているとき,「これを超える蒸気客船は造られないでしょう」と話す場面があります。あの言葉は,少なくとも船の大きさについては,映画ゆえの誇張でしょう。アンドリュース技師くらいの立場の人が,1年後に登場するドイツの船の情報を得ていなかったとは考えにくいですから。しかしタイタニックが就航した時点では,紛れもなく世界最大の客船であり,その総トン数46,328トンに対して,3万トンを超える船が現れたのがわずか5年前のルシタニア級であり,10年前にはまだ2万トンを超えたばかりでした。ですからタイタニックと前年のオリンピックが登場したときには,人々にはとてつもなく大きな船が現れたと感じられたのかもしれません。  



ライバルたちのプロフィール
 
 
  ルシタニア / モレタニア
 
             
 タイタニックが就航した頃は,ホワイト・スター・ラインキュナード・ラインという,英国の2大汽船会社の時代になっていましたが,その数年前までは,約10年間ドイツの汽船会社の天下でした。

 19世紀にずっと北大西洋に君臨した英国としては,再び主導の地位を取り戻したく,そのために国威をかけて建造した高速客船がこのルシタニア級です。タイタニック級の出現までは、世界最大の客船でもありました。

 開発されたばかりのタービン機関を大胆に採用して達成した高速力は,その後のタイタニック級やドイツのインペラトール級にも追随を許さず,1929年まで22年間も最速客船としての地位を保ちました。         

 
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lusitania
ルシタニア
   
  映画との関係
    1997年のタイタニックの中で、ローズたちがサウサンプトン港のタイタニック号に乗船するとき、会話の中にモレタニアの名前が出てきます。
また1996年制作の「タイタニック運命の航海」では,タイタニックのライバルとしてルシタニアの名前が出てきます。
そして1958年制作の「SOSタイタニック」では,サウサンプトン出港のシーンでルシタニアの映像が使われています。ルシタニアは1915年に撃沈されているので,タイタニックと同時代の映像なのでしょうね。 
   
   
  船主のキュナード社は,1840年創業の名門船会社で,現在ではカーニバルクルーズの傘下ではあるものの,2004年1月に就航したクイーン・メリー2 や, 1969年以来活躍し2008年に引退したクイーン・エリザベス2が有名です。

 

  オリンピック / タイタニック / ブリタニック
          
   1871年に汽船運航を始めた、やはり英国の名門船会社ホワイト・スター・ラインが建造した大型豪華客船。

ルシタニア級のスピードに対して、豪華さ、運航サービスの質の高さで対抗しようとしました。(もちろんルシタニア級も第1級の豪華客船でした。)

タイタニックの遭難後、オリンピックは船体側面の2重構造化救命ボート増備の大改装工事を行なって再就航しています。そうした改装をしなければ,とても乗客の信頼を得られなかったのでしょう。

写真をクリックするとオリンピック級船のデータとエンジン開発経緯の記事が出ます
olympic
オリンピック
     
                 第3船ブリタニック号は,当初ジャイガンティック号(gigantic 「巨人のような」)と命名される予定だったのが,タイタニックの遭難後,無難な「ブリタニック」に変更されたと言われています。
このブリタニック号は、完成しないうちに第一次大戦となり、戦争中病院船として働いている途中で,エーゲ海で触雷して沈没し,一度も客船として就航できませんでした。

結局オリンピック号ただ1隻だけが,3隻の誇りを背負って火を燃やし続けたのでした。

   
     
  イタニックとオリンピックの見分け方
Aデッキ(ボート甲板のすぐ下)プロムナードの手摺りより上が,オリンピック号では全体に亘って吹きさらしになっていますが,タイタニック号では,前半部分が覆われています。これは北大西洋は特に冬場波が荒く,波しぶきを避けるために,タイタニック号では改良が加えられているためです。1920年代以降の北大西洋航路客船では,全体が覆われるようになります。
 

 
        

  インペラトール / ファーターラント / マジェスティック
 
 
タイタニック級と似たコンセプト、すなわちスピードは適度に抑え、大型化によるメリットを狙って建造された豪華客船です。 

ドイツのハンブルク・アメリカ・ライン(ハパグ社)が就航させたのですが、間もなく第一次大戦となったため、ドイツの船として活躍できた期間は短く、戦後賠償品としてインペラトールは英国のキュナード社へ、ファーターラントはアメリカのユナイテッド・ステーツ・ラインズへ渡り,それぞれ第2の船主のもとで北大西洋横断航路に就きました。

タイタニック級と同様、第3船が建造されたのですが、やはり完成しないうちに第一次大戦が始まってしまい,戦後賠償品としてホワイト・スター・ラインの手に渡って完成し,マジェスティック号として就航して,タイタニック号無きあとの穴を埋めています。

 
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majestic
マジェスティック
     
              タイタニック級を上回る大型客船であり,また3隻ともがそれなりの期間活躍したにもかかわらず,本来の船主の下での運航ではなかったために影の薄い存在となり,タイタニック級とは違った意味で薄幸の客船たちでした。   

    

  アキタニア
 
            
キュナード・ラインが、ルシタニア級2船とトリオを組んで運航するために建造した第3船です。 

二度の大戦を無事に生き抜いて1950年まで活躍しました。

政府補助金の援助を受けて高速を目指して建造されたルシタニア、モレタニアと違い、むしろタイタニック級と似たコンセプトで建造され、大きさも似ています。 

 
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aquitania
アキタニア
 
姉妹船は3隻 (共通運航船3隻体制)
このようにキュナード,ホワイト・スター,ハパグの3社ともが,それぞれ3隻体制にしようとしたのですが, どの船会社も3隻でセットにしようとしたのは,当時大西洋の横断に5〜6日掛かり,3隻有れば毎週出航していくスケジュールで集客できたからです。
つまり横断が5〜6日ということは,往復でその2倍掛かり,港での停泊日数を加算すると,
それぞれの船は3週間サイクルの運航となったのでした。
 
                      

    


     
   いっしょに映画を観た友人は最初,タイタニックこそ史上最大の客船だと思ったようです。タイタニックを語るとき,「あの時点で」という言葉が省略されて世界最大という点が強調されがちなので,当然の受け止め方かもしれません。1年後2年後にはもっと大きな客船が登場し,23年後には総トン数でタイタニックの2倍近い大きさの客船が出現した ( 【タイタニックの系譜と客船の発達】 【スピード記録の歴史】のページをご参照ください) という現実は,映画のすばらしさをどう味付けしてくれるのでしょうか。ちなみに船の長さで見ると,史上最長の定期客船は1962年に就航したフランス号(66,348総トン,全長315メートル)で,タイタニック号は全長268メートル,フランス号の85%の長さです。  

  

  最近では,総トン数225,000トン,全長360メートルというクルーズ客船も現われ,時代の移り変わりを感じます。  

          


                 
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