sorry,Japanese only

『 青年期のアスペルガー症候群
      
  − 仲間たちへ、まわりの人へ

ルーク・ジャクソン:著 ニキ・リンコ訳 スペクトラム出版社 定価:1900円+税
ISBN4‐902082‐01‐2 C0037 ¥1900E


「青年期の・・・」と表題にありますが、いわゆる“青年”、高校を出て就労したり、大学に行ったり・・という年よりは、もう少し若く、ローティーンで思春期真っ盛りのルーク・ジャクソン君、13歳が書いた現在進行形の体験記です。
副題にある通り、この本のよさは まずは「仲間たちへ」のメッセージです。同じアスペルガー症候群(AS)を持つ仲間としてアドバイスや相談に乗ろうとしています。語り口は軽妙で(ニキ・リンコさんの訳のうまさもあるのかもしれませんが・・・でもニキさん曰く「この文体は、私が日本語に訳すときに、みなさんに読みやすいよう、勝手にこしらえたものではありません。元の英語で読んでも、ルーク君の文章は、やはり子ども向けの娯楽書のような、くだけた文体なのです」ということです。)、こんな友人がそばにいたら同じアスペルガーの子どもたちも心強いのではないでしょうか。

一方で、この障害が遺伝的なものかどうかを気にしている人にとっては、愉快だけれどちょっとショックな家族紹介からスタートしています。
ルーク君は7人兄弟の4番目、男4人、女3人の兄弟です。兄さんは読字障害と協調運動障害、上の弟はADHDで下の弟は自閉症、そしてルーク君はアスペルガー症候群というわけです。自閉症スペクトラムの特徴にあるように、男性陣とは違って姉妹たちは社交的であったり、美術やダンス、詩の才能など多芸多才です。この本の挿絵も2人の姉さんと妹がうまく書いています。
とても明るく書かれていますが・・・実際に、本書を開いてから閉じるまで楽しい家庭の姿が描かれています・・・遺伝的因子がなんらかの形で自閉症スペクトラムの発症に関連しているのは否定できない事実のようですね。
それはさておき、本書はアスペルガー症候群(AS)を肯定することからスタートしています。受け止め方次第で、障害があろうとなかろうと、家庭の明るさには変わりがないという例だと思います。
ルーク君自身も、ASに対してはそれを障害ではなく、ギフト(贈り物、才能)ととらえています。まえがきの中でトニー・アトウッド博士(「ガイドブック アスペルガー症候群」)も書かれています。
この本は、「自分はここじゃよそ者だと感じている人たち」にささげられています。そんな人たちに、「忘れちゃダメだよ。まわりとちがっていることは、すてきなことなんだ」と伝えるための本なのです。
アスペルガー症候群の若者たちの中には、「こんな自分なんか、ダメだなあ」と感じている人もいるでしょう。ときどき、ひどく心配になったり、落ちこんでしまう人もいるでしょう。ときには、うんざりしてしまうこともあるでしょう。そんな人たちも、この本を読めば、元気をとりもどせるのではないでしょうか。
ルーク君の話はおもしろいし、役に立つことも出てきますが、それだけではありません。つかれたり、傷ついたりした心を、元気にしてくれる力もあるのです。
先月号の会報で紹介した吉田友子先生の「あなたがあなたであるために」と同じメッセージを、こちらは支援者としてではなく、本人の側から自らの言葉で伝えてくれている本だ思います。
ルーク君は、本書の中で仲間のために、告知してもらうことの大切さから始まって、感覚や睡眠のこと、学校やいじめのこと、友だちづきあいやデートのことまでアドバイスしています。でもその本当のねらいの中には、お父さんやお母さん、保護者や学校の先生に向けてのメッセージも含まれています。それが副題の後半部分「まわりの人へ」です。
子どもさんがいじめられていると知りながら、それでも学校に行かせるのは、ライオンの穴に放りこむのと同じだ。お子さんを守るのはお母さん・お父さんの仕事。だから、できるだけのことをしてあげてほしい。
ことが十分に解決できたと思えないなら、どうか、どうか、どうかお願いですから、もうだいじょうぶだとはっきりするまで、学校には行かせないでください。何とかしようと対策をとっている間、お子さんを苦しませないでください。
これだけは覚えておいてください。ホームスクーリングに切りかえるって選択肢はいつでもそこにあるんです。法律で求められているのは、学校あるいはそれに代わる場所で教育を受けさせることですから。

ルーク君、この若さにして周囲の理解がどれほどこの障害にとって不可欠のものであるか知っているようです。そしてそれを周りの方から反発を受けることなく、うまくつきあうやり方について表現しています。
自閉症やASの子どもを育てるみなさんも、お願いだから、「うちの子も、ある日とつぜん、こんな才能がめばえないかなあ」なんて期待するのはやめてね。お子さんには驚異の特殊能力はないかもしれないけれど、それでも「サバン」の人たちと同じように人間なんだから。ぼくらはみんな、それぞれに驚異の存在なんだよ。
これも言っておかなくちゃ。なんらかの理由で「ASの人たちは、ASじゃない人よりもすぐれてる」って考えるのも、偏見の一つだ。「ASの人々はみんなとちがってるから、ダメなんだ」って思うのと同じようにまちがっている。
これを読んでるASのみなさん、忘れないでね。ほかの人たちがみなさんを受け入れてくれることを望むなら、みなさんのこと、みなさんのASのことを理解しようと心がけてくれることを望むなら、みなさんの方でも同じことをしなきゃ。ほかの人の、自分とちがっている点を受け入れ、理解しようと努めなきゃ。
障害をもつ人ももたない人も「みんな違って、みんないい」、大切なのはお互いの違いをお互いが理解し認め合うことだと思います。
自閉症をもつ人の場合、「彼らの方から私たちの世界に歩みよってくることは難しいから、まずは私たちの方から彼らの世界、文化を理解していくことが大事です」とはよく聞くアドバイスです。
ルーク君はそれから一歩進んで、彼らの方からも、理解に努めよう!と言ってくれています。確かに高機能自閉症やASの場合、彼らの方からも歩み寄っていただければ、お互いの理解は、よりいっそう進みますね。
そのためにも、この本はASの人のために「ASじゃない人はこんな風に感じることがあるよ」と、自らのことばでガイダンスしています。それでは「デートのルールを知っておこう」から、そのアドバイスの一端を・・・
あくびをしながら伸びをして、そのいきおいで、下ろした腕をいきなり肩や背中に回すのもやめよう。うちの姉さんたちや妹の意見によると、最初は、手をにぎるくらいの方がいいんだそうだ。
手をにぎりかけたけど、すぐにひっこめられてしまったとしたら、相手はいやがっているということ。自信がないときには、本人に聞いてしまうのがいちばん。
足をぶらぶら、がたがたゆすったり、指先でテーブルをこつこつたたいたり、つめをかんだり、そういったことどれもやっちゃダメ。たいていの女の子には、ものすごくいやがられる(だよね? ママ)。
いかがでしょう。もしお子さんが、ASだと自分で知っておられるなら、「この本、わりとオモシロかったよ」とお薦めいただきたい一冊です。
(「会報 88号」 2005.9)  

  目次

まえがき ・・・・・ トニー・アトウッド
お世話になったみなさんへ
1 はじめに ― ぼくと家族のこと
2 アスペルガー症候群と自閉症スペクトラム
「レッテル」? それとも「道しるべ」?
3 言うべきか? 言わざるべきか?
告知
だれに・どう打ち明ける?
4 情熱とこだわり
専門分野のこと
  ゲーム機とコンピュータ・ゲーム
コレクション
  鉛筆
  ヒモとか、細長いもの
  乾電池
強迫行動
強迫をおさえこむには
5 感覚のこと
感覚のことAからZまでーぼくらは感覚からしてふつうとはちがっている
  触覚
  圧迫感
  視覚
    アイ・コンタクト
    回転
  聴覚
  味
  におい
感覚の混線
6 生理的機能のこと
向いてる食事もちがうかも
7 睡眠のこと

ASのみなさんに贈る、眠るための工夫のいろいろ
お子さんの安眠のために ― おうちの方のためのヒント
8 ことばのことと学びのこと
ティーンのことばづかい
  みんなの中に、こんなやりとりが思い当たる人はいないかな?
文字どおりの解釈と論理
親ははっきり、子どもはごきげん
9 学校って大変
読み・書き・算数のこと
  読む力
  書く力
  算数の力
宿題の話
  宿題のやりかた ― いやな経験を少しでも役立てるには
体育はつらいよ
  自分の体と空間
  体育の先生がたへ
学校がどうしてもダメだったら
10 いじめ
ぼくの場合
どんなのがいじめなの?
  体のいじめ
  それ以外のいじめ
  先生にいじめられたら
どうして自分が選ばれるんだろう?
いじめみたいだけどいじめじゃないとき
いじめっ子に対処する
  お母さん・お父さんたちへ
  ブランド社会
  学校の先生がたへ
  いじめられてるきみたちへ
11 テコンドー
ぼくの通っている教室
テコンドーの歴史
テコンドーをやると、こんないいことがある
12 友だちづき合いのこと
友だちをゲットし、人の心をつかむには
おせっかいなお父さん・お母さんたちに、警告
13 男女交際
自分の気持ちをさぐってみよう
チャンスをふやすためのコツ
ゲームのルールを知っておこう ― デートのときにした方がいいこと、してはいけないこと
14 道徳と道義
悪い意味で有名になると
ルールは破るためにあるわけじゃない
青年期のアスペルガー仲間のために
15 最後に
訳者あとがき
著者すいせん図書
役にたつ情報源
さくいん

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