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『 自閉症ガイドブック シリーズ4 成人期編 』
社団法人 日本自閉症協会 定価:1000円(税込)
監修:石井 哲夫・須田 初枝・宮崎 英憲・山崎 晃資

自閉症協会のガイドブック・シリーズの4冊目です。「乳幼児編」「学齢期編」「思春期編」と続いて、次第にボリュームも増え、分厚くなってきたように思います。
本来であれば、自閉の症状の発現が一番目立つのは、就学前の時期なので逆にボリュームは薄くなっていってもいいと思うのですが・・・実際に我が子(今年、高等部を卒業して“成人期” に入りました)の例でも、就学前は多動の極みで一瞬も目を離せなかったですし、よその車でも塀でもコツコツとノックしながら歩いたり、ソファーの上でジャンプを繰り返しとうとうバネまでむき出しになったり・・・とその頃に比べると今ではずいぶん落ち着いて、本人も家族も暮らしやすくなっています。それどころか、日常生活では大いに息子に助けられながら暮らしています。
では、なぜガイドブックのページが増えてきているのでしょう。それはやはり自閉症の特性の一つ、社会性の障害によるのではと思われます。自閉症の他の特性であるコミュニケーション障害やこだわり・想像力の障害などについては、適切な療育さえ続けていれば、次第に改善していきます。しかし、社会性については、ライフステージが上がるにつれ、その求められるレベルも上がっていくため、新たな問題も起こってくるように思えるのです。
学齢期においては、保護者や先生、療育機関などの支援もあり、ある意味受身であってもそれなりに暮らせていけているのではないでしょうか。加えて学校というもの自体が、結構構造化された環境であるというのも自閉症児にとってはありがたいのでしょう。
しかし、学校を卒業して、一歩社会に踏み出したとたん、自らの身体一つで求められる社会性に応えなければなりません。これは、知的障害を伴うタイプ、高機能なタイプに関わらず、自閉症児(この歳からはもう自閉症者と呼ぶべきかもしれません)にとって、かなり厳しい状況だと思います。そしてむしろ一見 “普通” と見なされて、求められる社会性のレベルが高くなるだけ、高機能な方にとって、より大きなハードルになるかもしれませんね。
本書でもそのあたりを配慮して、いかに適切な支援を受けて、社会生活・就労を維持していくかとといことに大きなウェイトを置いています。
本書の前半では「成人期を豊かに生きるには」ということを大きなテーマにして、それぞれの場面での支援の方法が具体的に述べられています。そして後半ではQ&Aの形で、より具体的な質問に対して、各分野の専門家の方、あるいは保護者・ご本人が答えられています。
障害がわかってから社会に出るまでは20年もないでしょうし、その中でも学校に通っているのはわずか10数年、それに比べると社会の中で生きていく成人期はその数倍、この成人期をいかに豊かに暮らすか、ということが彼ら、彼女らの人生にとって大きなウェイトを持つことになります。しかしそれは、本書でも多くの方が触れられているように、それまでの歳月を軽んじることではありません。
  『 いきなり成人期は来ない
成人期は幼少期から学童期、思春期が基礎となることはいうまでもありません。幼少期から自閉症の特性を把握し、成人期への将来展望を持ち、スキルの獲得と応用性を増やすことが、豊かな人生の保障につながります。
(近藤 弘子)
今、我が家では息子はすでに成人期に足を踏み入れましたが、幼児期・学童期のお子さんを持つお母さんたちにも、ぜひ前もって読んでおいていただきたいと思う1冊です。
「いきなり成人期は来ない」 自閉症という障害名を告げられ、その障害の受容までには誰しも歳月が必要だと思いますが(そのためには、このシリーズの前作「乳幼児編」や「学童編」が助けになると思います)、気持ちが落ち着かれたら、ぜひこの言葉を思い出していただきたいと思います。
そして、将来の我が子の生活、「どこでだれと暮らすか」「日中、何をして暮らすか」「何を楽しみ・生きがいにして暮らすか」をイメージして、では今そのためには何をすべきなのかという “展望を持って”今のお子さんとの暮らしを考えていただきたいと思います。
まだ幼い我が子を前にしてイメージしにくい面もあると思いますが、その意味でも本書の先輩のお母さん・お父さんたちが書かれているコラムの数々はその参考になると思います。
また、まだ幼いお子さんを持つ親の方には「いきなり成人期は来ない」という言葉にはもう一つの意味もあると思います。つまり、“まだ成人期までは時間があります” 長期的な目標を目指して療育を行なっていく時間的余裕もあるということです。そのためにも、若い親御さんにこそお薦めの「成人期編」かもしれません。
もちろん、今成人期に達したお子さんを持つ家族にとっても、これからの人生、成年後見制度や意向書・遺言書の書き方の話など・・・いよいよ切実になってきた現実と向き合うきっかけとなる一冊だと思います。
お子さんにとっては、親の死だけではなく、親が認知障害(認知症、脳機能障害など)となった時も庇護を失うことになります。(出版部)
そうですね。夫婦ともども忘れが多くなってきた今日この頃・・・ボける前にこれからのこともはっきり考えておいたほうが良さそうですね。改めてそんなことを考えさせられたラストでした。
(「会報 97号」 2006.5)

  目次

  はじめに
1. 自閉症と成人期・概論
  自閉症とは
  成人期における課題と支援の方向性
成人にとって、豊かな人生とはなにか
  本人の立場から
  親の立場から
     コラム 「生きよう! 楽しく! 和やかに、自分らしく!」
          親として1日でも長く生きたい
          親の会の仲間とともに

  支援者の立場から
  専門家の立場から
生活の面で
福祉支援の面で
     コラム 本人・家族の福祉と権利擁護のために
医療の面で
  成人期に注意しなければならないこと
  高齢期の問題
  成人期になってからの診断
  病気になった場合の注意
  医療費補助や精神保健法との関連について
移行に関して
  学校から社会へ − 移行期をのりきるために必要な支援
     コラム 「夢」のひとり暮らしに向けて
  学校教育における移行支援 ― 就労をめざして
  卒業後の支援
2. 成人期を豊かに生きるために
  自立するために
自閉症の人にとって、自立とはなにか
自立をめざすための親子関係
  家庭での取り組みについて
対人・友人関係
  友だちをつくるために
     コラム ハンディがあってもいきいきと
  人間関係を広げるために
  社会性を広げるために − バディがもたらす友情と広がる社会性
  障害の告知について
医療の立場から
  本人への告知の意義、告知の方法、告知後の支援について
福祉の立場から
  性について、異性・結婚について
自閉症の人の性をどう考えるか
異性との付き合い方
結婚をどう考えるか
わたしの結婚生活
     コラム 息子を通して成長できた
          まず、家族が安定した気分で
  就労について
  経済基盤・福祉支援について
経済支援制度の仕組み
親として備えておきたいこと
     コラム 元気なうちに、親亡きあとのことを考える
人権・権利擁護、犯罪について
  自閉症の人が犯罪に関係してしまったら
  だれとどこで暮らすか
  働くということ
働くことの意味
働くことの準備
就労
職種
就労支援の実際
     コラム 返事、あいさつ、素直を目標に
          真面目な労働力を評価されて
          軽度発達障害者に対する就労支援を
  余暇活動について
余暇活動とは
「アトリエAUTOS」の活動を通して
  社会資源の利用について
地域活動を支えるための社会資源
     コラム ライフステージに応じた支援を
施設とその役割
  施設の種類と役割
  具体的な施設利用にあたって
  利用の仕方、これからの入所施設のあり方
     コラム 夫婦で力を合わせて
各種社会資源を利用するために
  健康でいるために
健康でいるために必要なこと
精神化治療薬について
3. Q&A こんなとき、どう対処する?
  行動の面で
Q. 執着が強く日常生活でも困難
Q. こだわりがひどくなった
Q. 同じことばのくり返し
Q. 自動販売機に突進
     コラム 人生を楽しむ今日この頃
Q. 奇声が続いている
Q. 偏食で困る
Q. 要求がうまく伝えられず、トラブルが多い
     コラム みかけだけで判断しないで
Q. 困った行動への対処
Q. 他人への噛みつき
Q. 一日中落ち着きがない
Q. 自傷をやめさせたい
     コラム 固執を上手に利用
          経験をさせることが大切
          「ひとりじゃない」と実感
  医療の問題
Q. 不安やうつ状態について
Q. 引越し3年後から不安に
Q. てんかんの服薬について
Q. 強迫観念や緊張でトラブルを起こす
Q. 医師の理解を求めるには
Q. 自分の症状を正しく伝えるには
Q. 身体の不調に気づくには
Q. 入院治療が必要になった時
Q. 障害の告知について
     コラム 「フツー」って何ですか
Q. 「引きこもる」ようになった
     コラム 一生懸命育て
  生活の面で
Q. 健康的な生活をするには
Q. 自分の生活を管理できない
     コラム 高機能自閉症への支援を
Q. 自主的・積極的に行動するには
Q. 成人期の人たちの生活相談の場は
  就労の面で
Q. 困っても訴えられない
Q. 職場でのコミュニケーションのサポート
Q. 要求を理解させるためには
Q. 就職後のサポート
Q. 職業相談の場
Q. 働き続けるためには
Q. 転職したが
Q. 一般就労への準備
Q. 福祉工場について
Q. 作業所職員の対応に不満
Q. 作業所職員の理解を高めるために
Q. 職場での不適応をどうするか
Q. 休憩時間の問題
Q. 昼休みとトイレ
Q. 重度でも働ける場を
Q. 就職情報を得たい
Q. 進路の問題
Q. 在学中に職業生活イメージを作るには
     コラム 「男らしいから」
  余暇支援について
Q. 外出の付き添いがほしい
Q. 鉄道趣味の仲間を求む
Q. 趣味の仲間作り
Q. 家の外での楽しみを
Q. 単独行動への支援
Q. 一人で遠出するときは
Q. 自閉症や発達障害の人の旅行について
Q. 週末、長期休暇の過ごし方
Q. 障害の程度が重い人の余暇支援
     コラム 小さい頃からの積み重ねが大切
Q. 本人に合う余暇支援を
   親の立場から
     コラム 時間をかけて、ていねいに
   支援者の立場から
  トラブルを避ける
Q. インターネットや携帯のトラブル
Q. 詐欺やキャッチセールスへの対応
Q. 「怪しい人」と思われた時
Q. 社会のルールに沿うには
Q. 事件に巻き込まれないために
Q. だれに助けを求めるか
Q. 加害者になってしまったら
  家族関係
Q. 子どもが親のいうことを聞かない
     コラム ありのままを受け入れる
Q. 親がうまく相談にのるためには
Q. 社会に出ていくために親のすべきこと
     コラム 地域で生きるために
  今後の課題 ― 将来に対する不安
Q. 自宅でひとり暮らしをしたい
Q. グループホームを体験させたい
Q. ひとり暮らしへの福祉支援
     コラム これからの不安
          自分の意思を伝えられるように

Q. 施設退所後が不安
Q. 施設入所者の財産管理
Q. 財産管理について
Q. きょうだい以外にも後見人を
Q. 重度の人の生活の場
Q. 服薬の問題が心配
Q. 親亡き後、年金収入だけでは不安
     コラム 親亡き後の安心できる場を
Q. 成年後見制度の利用
Q. 結婚について
  福祉支援について
Q. IQが高く、手帳が取れない
Q. 支援費制度の対象
Q. 急な場合のショートステイ
Q. パニックへの対応
   福祉の立場から
   医療の立場から
4. 将来に備えて
  高齢化をどう考えるか
   医療の立場から
   福祉の立場から
  経済的問題をどう考え、どう備えるか
  成年後見制度について
  親が支援できなくなった時
   親亡き後の支援体制を考える
     コラム 支援・制度・所得の充実を
   意向書の必要性について
  遺言書について
  遺産相続
5. 本人・きょうだい・友だちと
  本人、きょうだい、友だちからのメッセージ
  本人から
  きょうだいから
  友だちから
6. 生涯にわたる支援システムの構築
  生涯を支えるトータルケアー
  トータルケアを考える
  発達障害支援法の展望
  発達障害支援法への期待と展望
  発達障害支援法への展望
  意向書のモデル
     コラム 後見支援の充実を
  参考 サポートブック
付録 自閉症の関係機関一覧
発達障害支援センター、自閉症専門の相談・療育機関
療育手帳について
日本自閉症協会支部(事務局)名簿
自閉症関係施設一覧
日本自閉症協会の主な活動
  執筆者一覧
  あとがき

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