家を建てる依頼の仕方−その1
「そろそろ家をもちたい」
「マンションにしようか、それとも一戸建て?」
「建売あるいはハウスメーカー?それとも?」
家を考え始めたとき、多くの方は次にすることはモデルハウス巡り?
数軒回ったメーカーがそれぞれ「我が家だけのオリジナル?な間取り図を無料で描きます」と言ってくれます。そしてなんの疑問も持たず「いちばん営業マンの感じがよくて、親身に話を開いてくれた?」ハウスメーカーで、何千万円の新築住宅をお買い上げ?
ちょっと待ってください!
これが初めて家を買おうとする人の多くの方のパターンです。それが悪いわけではないですが、まずその前に、あらためて考えてみませんか。
住まいというものの情報をほとんど持っておらず、「住むこと」や「自分好みの基本的な暮らし方」を今まであまり考えたことのない場合、住宅展示場へと行くと、初めは「ただの見学のつもり」で、「すぐに買う気、決める気などない」のですが。
そこで目にするのは何か。ゆったりした敷地に建つピカピカのモデルハウス。外観はたとえばモダンで現代的な外観、豪華で風格のある和風などなど、オプションがたっぷり付いた豪華な最新設備、今より格段に便利な生活ができそうです。仕上げは最高ランク、インテリアコーディネーターが都会的センスでレイアウトした?(もちろんオプションの家具付)モダンな家具やインテリア小物。高い価格の照明器具などなど。
そんな素敵なモデルハウスを幾つも続けて見ると、自分の敷地の狭さや現実の予算も忘れてしまいます。しまいには冷静な判断力を失って、「このメーカーに頼めば、こんなお洒落な暮らしができる!」という夢を見ても、不思議でないかもしれません。
展示場に行くより先にしたいこと
私は、大事なのは次の三つだと思っています。
まず「住まいについて考える」冷静に考えてみてください。自分がどんな風に住みたいかを、それもごく基本的なことを自問し、家族で話し合って明らかにします。
皆さんはどんな暮らしが理想ですか?これから家での生活というものを、どんな位置づけで考えていますか?家を新しくするなら、ぜひ日々の暮らしというものについて一度考えてみてください。
それから同時にしたいのが「住まいについて調べる」から始めましょう。家づくりの方法にはどんな選択肢があるのかを調べます。今はインターネットという便利なツールがありますから、ホームページで発信者から直接の情報がとれるし、メールでコミュニケーションも可能です。
さらには、「準備期間を十分にとる」ことも大切です。家づくりには時間がかかります。特注の服や家具だって、出来上がるまでに数カ月かかるのに、ハウスメーカーの住宅のように新築の家を決めてから住むまでにたった3カ月なんて、これから長い一生ローンを払い続ける住宅、何かおかしくないでしょうか?
大切なのは住まいについて「考え」「調べ」「時間をかけ」ることです。それからモデルハウスに行きましょう。そうすると、各社の特徴や考え方などを冷静に比較できます。そして、自分たちには住宅メーカーの住宅がベストだと思ったら、もちろんそれで良いのです。
脱・住宅衝動買いへの道
しかし時代は少しずつですが、確実に変化しています。
「ヨーロッパでは一般に家づくりに自分が関わるプロセスを、苦労を含めて子供に見せる」ことが親の務めだと考えられているそうです。日本のように大規模なハウジングメーカーというものがないので、ほとんどの人は地元の小規模なメーカーに頼み、内装は自分でやります。あるいは中古住宅を買って直す。モデルハウスだけを見て、莫大な金額の建ってもいない新築住宅を衝動買いするのは、日本だけじゃないでしょうか。
私が設計した住宅に住まれてから1年になる方の住宅を訪問したとき、「本当に1年間の設計の期間、工事の期間は楽しかった。」と言われていました。一生でそうない経験、楽しまない手はありません。
住まいづくりの始まり
とりあえず、家族みんなで住宅雑誌などを見ながら話し合っても良いでしょう。
いずれ未来の家に反映できるでしょう。具体的な準備の仕方を書いてみます。
1. どんな暮らしがしたいのかを書き出す。
料理は誰が作るか?食事は誰とどんな風にしたいか。
リビングの椅子はソファかそれとも座のスタイルか。
リビングは食堂と兼ねるのか。和室とつなげるのか?
寝室には自然光が欲しいかそれともシャットアウトしたいのか。
床は無垢板がいいのか。
収納は多めか少なめか。
などなど、ともかく希望の生活や、好きな素材、生活スタイルなど、住まいに関しての好みと習慣を思いついた時に書き出すメモをつくるとよいでしょう。家族一人一人のメモを最後にまとめ、後々、建築家など家づくりのパートナーに見せられるようにします。
しかし、いずれ誰かに見せるからといって、ありのままを書くことが大事です。
現在の生活とかけ離れた理想論も考えものです。
現実とかけ離れた家ができてしまうという悲願が生まれかねません。正直に、希望の自分の生活を見つめて書いてください。
−「住まい相談シート」をご利用ください−
2. 自分の好きなホテルやレストラン、雑誌などから住宅やインテリアの好みの例をあげてみる。
その全部あるいは一部をそっくり真似するのではないですが、その「何」が好きなのか見つけると住まいのイメージがしやすいです。
たとえばそれは温泉風のお風呂かもしれないし、テラス付きのダイニングかもしれません。高いリビングの天井かもしれないし、などなど、そんなことも書き出してみると良いでしょう。
そうすることによって、自分の住宅のポイントを探し出し、エッセンスとして新しい家に取り入れていくのもよいでしょう。雑誌の切り抜きや、自分で書いたラフプランやイラストなど、ビジュアルの資料を集めたりつくったりすると、建築家に伝える時とても役に立ちます。
3. 住宅関連の資料、最新情報を手がかりにする
家に関する情報に敏感になりましょう。勉強などと思うと堅苦しいですが、趣味と思えば楽しいと思います。書店に行くとびっくりするぐらい住宅関連の書籍があります。その中から、自分の建てたいと思う方向性のものを、数冊選んで読んでみたらどうでしょう。
なかには、自社の機器や工法、住宅を売らんがために、他を非難しているような宣伝目的の本もあります。一作品や一人の著者やメーカーに肩入れせず、多角的な意見を比較検討することを忘れずに。近くの図書館に出かけるのも良いです。
4. 家の選択肢について考える
住宅展示場で選ぶ以外に、家づくりの方法にはどんなものがあるのか。それぞれのメリットは何で、自分にはどれが向いているのか。インターネットや本、雑誌などで調べて比較検討します。まず家づくりに可能な選択肢を知ることも大切です。
家づくりの成否を決めるものは?
どうでしょうか。項目別に書き出すと、何か仕事か勉強のようで大変ですか?
大丈夫、そんなことはありません。どれも普段何気なくしていることをちょっとアレンジすればいいのです。本屋さんに行ったときに思い出したり、家事の合間に自分の考えをメモしたり。家族でお気に入りのレストランに行ったとき、空間を見廻して「照明の明るさの具合やインテリアについて会話をしたり」「庭が眺められる窓の位置がいいね」などと、心地よさの分析を話題にしてみればどうでしょう。
こうした準備が、その後の建築家との家づくりのプロセスがあまりに楽しくなり、建った家がすっかり気に入って、自分の家を建ててからもすっかり住宅オタクになってしまった、という住み手の方は何人もいます。せっかく高いコストをかけるのですから、楽しまない手はないのです。
家を建てたことがきっかけで、すっかり住宅のもつ魅力にハマってしまう人、これからの暮らし方、生き方・考え方の変わった人もいます。個人にとって家づくりは、これからの人生の中でエポックメイキングなイベントと言えます。
ですから、たかが準備と侮ることなかれ。この準備こそが、その後の家づくりと人生の成功と失敗を分かつ、もっとも重大な鍵と思います。
私に向いている「家」はどれ?
さて、一般的に人が「家を買う」あるいは「建てる」発想をしたときに思い浮かべる選択肢にはどんなものがあるでしょう。
1. メーカー住宅
一般的には展示場にモデルハウスを見に行くと、まず営業マンが話を聞いてくれて、契約する前に何通りかのプランを「無料で」提案してくれます。無料とはいえ、後の工事費のどこかに営業マンや東京の本社の経費や誇大広告費は含まれています。料金にはキャンセルになった他人の経費分までどこかに含まれます。
それでも、ハウスメーカーの住宅は、モデルハウスを見てからでないと買いたくない人や、何より時間がなく、我が家に対してこだわりのない方には向いています。
「オーダー」といっても、各社の仕様の中から選ぶのが普通で、その会社が取り扱っていない工法、仕様、素材は使えません。無理に要求するととんでもない、高い買い物になるので要注意。また、変形敷地や軟弱地盤だと、かなりコストがかかる可能性もあります。
さらに、メーカー住宅は一般的に、取扱い以外の素材や工法・商品の知識に欠ける傾向があります。シックハウスや自然素材への対応などは期待できません。
2. 建売住宅
ご存じの通り、すでに建っている住宅を買うというもの。なかには、買う時点ではまだ建ってはいないものの、買った敷地に、その業者の規格の家を建てることが決まっている場合もあります。建ってしまっている家は自分たち家族のためにプランされた家ではないので、これからの生活にふさわしいか十分検討してください。また、どんな材料が使われているのか、どんな工事したのか分かりにくいので、信頼のおける会社から購入しましょう。
これから建てる場合、多少プランなどのアレンジはできますが、使われる部材や仕上げはほぼ決まっていますから、大幅に変更はできないか、できてもコストがアップすることが多い。
最近は、建築家と組んだり、新しい試みをしている建売の会社もありますので、買いたいと思う建売住宅の会社とよく相談してすすめましょう。
3. 工務店に頼む住宅
文字通り、工務店に依頼して新築を建てる方法です。地域の山の木などで、長持ちする家を建てようと努力している工務店もありますから、何より丈夫な家がいいとか、自分自身で設計したいなどと考える人には向いているでしょう。但し、総じて工務店の人たちや大工さんは、化学物質に関する知識があまりないのが弱点とも言えます。
さらには、工務店は「建てる」工事の技術、ノウハウは持っているものの、設計デザインのクオリティやセンスは、建築家には及びません。建築を学問として勉強し、考えながら設計や監理にだけ集中して生業としている建築家と比べたら、それは当然のことです。
工務店の設計士さんも多くの物件を抱えていたり、設計士としての住まいの空間の美しさ、建築としての完成度、新たな可能性、緻密に考え抜かれたプラン、モダンなセンスなどを望む人には物足りなかったり、垢抜けなく見えたりするかもしれません。
4. 建築家に設計を頼む住宅
設計事務所を営む建築家と設計契約を結び、工事に関しては施工する工務店と工事契約をします。建築家は工事が図面通り進んでいるかをチェックする工事監理を行います。
この方法では、時間と労力がかかるということが言えます。
建築家に会ってから入居できるまで、概ね1年ぐらいかかりますから、それより早く入居したい人には無理な方法です。今すぐ、あるいはなるべく苦労せずに家を手に入れたい人、家づくりに積極的に関わる気がない人も、向いていないでしょう。
それから、完全なオリジナル住宅であるということ。見本もモデルハウスも規格プランもなければ、標準の仕上げなどというものもありません。あなた方家族の要望を建築家がかたちにする住宅ですから、まだあなたも、もちろん建築家も誰も見たことのない、どれにも似ていない家が出来上がるはずです。
さらに、健康と環境に優しいエコロジーな工法と素材での家づくりをかなえるためには、いちばん確かな方法であると言えます。
今のところ、完成度の高い住宅を建てるには、この選択肢が無難と思います。健康的な家に住みたい、満足できる住宅を建てたいと考えているなら、エコ住宅の実績があり、努力してくれる建築家をパートナーにして、設計のみならず、家づくり全体をコーディネートしてもらうことをおすすめします。